ブログを始めるにあたって、やりたかったことのひとつが書評。ジャンルは決めずに気になった本を紹介したいと思います。
というわけで今回は『きゃくほんかのセリフ!』という作品について、お話させていただきます。
ネタバレはございませんので、安心してご覧くださいませ。
『きゃくほんかのセリフ!』あらすじ
デビュー作以来、鳴かず飛ばずの脚本家・武田雲太。ある日、彼の元にトラブル続きの作品の、劇場版案件が舞い込んできた。だが、その依頼主は過去に一悶着のあった極悪プロデューサーで……。時を同じくして、彼の仕事場にかつての相棒の妹・佐江が押しかけてくる。あげく「大人の事情」などお構いなしに仕事にケチをつけてくる始末。脚本会議で無茶を振られ、家で佐江に振りまわされ――。だが、その過酷な環境でもがくなか、雲太はかつての情熱を取り戻していく。現実に押しつぶされながらも夢物語を書き続ける男の、才気と情熱の物語、開幕!!
ますもとたくや著『きゃくほんかのセリフ!』文庫本の裏表紙あらすじより
『きゃくほんかのセリフ!』はアニメの脚本家にスポットを当てた、お仕事系がけっぷち逆転ストーリーです。
著者はますもとたくや(@masumoto_takuya)先生。
大学時代は俳優の升毅さん、ムロツヨシさんらと演劇活動をされており、 アニメ『ONE PIECE』のテレビシリーズで脚本家としてデビューしたそうです。
テレビドラマや特撮、映画や舞台の脚本も数多く担当されており、そのなかで小説も執筆されている多忙な先生なんですね。
個人的にはめちゃめちゃハマったアニメ『ゾンビランドサガ』の脚本を書かれていたことに驚き&興奮!
記念すべき一冊目から良いめぐり逢いをしたなと確信しました。
作品のボリューム
2019年3月19日に発売された本作は、文庫本で248ページの厚さ。主人公の一人称視点で描かれています。
全14話から構成される物語ですが、はじめと終わりをプロローグ・エピローグとするならば実質12話。まさにアニメやドラマの1クールと同じですね。
お仕事系というと専門用語が多そうなイメージですが、聞き馴染みのない言葉はしっかり説明がされています。単語でつまづくことはありませんでした。
山あり谷あり笑いありで進む各話はコンパクトにまとまっているので、ちょっとした時間の合間にも読み進めやすい。
「長編を読む時間はないけど、なんか読みたいな~」と物語成分の欠乏を感じている方は、手に取りやすい一作ですよ。
掛け合いの中で暴露されるリアル
読み始めてまず感じたのは「なんかエピソードがリアルだな……」
主人公を通して、脚本家という仕事の苦労や業界の大変さが語られていくのですが……どれもこれも「これ実話じゃないの?」と思わせる話ばかり。
「違う! 私が聞いてんのは、アニメの劇場版にタレントを出すのが当然みたいな風潮って、何なのってことよ!? そんなことして作品が面白くなんの!? ねえ!?」
ますもとたくや著『きゃくほんかのセリフ!』より
一般人には知ることができない業界の裏側についてバッサバッサ切り込んでいく本作。実際に業界を生き抜いている著者だからこそ、文章が生々しくて説得力がハンパない。
特にお金関係の部分は「そんなところに利権が発生するんだ」と初めて知りました。普通にアニメを観ているなら気がつかない仕組みですね。
「お前に何がわかるんだよ! 大人にはな、大人の事情ってもんがあんの!」
「だったら、子どもにもわかるようにテロップで出せば? 『部屋を明るくして、テレビからはなれてみてね』みたいに『この作品は大人の事情で、つまんないです』って」ますもとたくや著『きゃくほんかのセリフ!』より
提供する側の苦労は、受け取る側(多くはお客様)にとっては見えないし見せてはいけない部分。これってあらゆる分野に当てはまるのではないでしょうか。
だけど提供する側も人間。努力を分かってほしい気持ちもあれば、外部圧力で仕方なくこうなったんだ! と身の潔白を証明したいことは星の数ほどあるでしょう。ありますよね?
でもそれが言えないのは仕事への責任感だったり、プロとしての矜持だったり。本作の主人公もまた、自身の立場や誇りと葛藤しながら生きています。
誰しもが一度は経験したであろう吐き出せない気持ちを、本作の主人公は代弁してくれている。読んでいるとそんな気持ちになって、共感しちゃうんですよ。
誰だって自分の仕事が報われたいと願う
「俺も含めてアニメ作ってる人間が、見た人に思ってほしいことはただ一つ。『面白かった』。そんだけ。どんなに苦労しても、たったその一言で、本当に報われる」
ますもとたくや著『きゃくほんかのセリフ!』より
自分の行動や作り上げたものに対して「すごいね」「ありがとう」一言でもいいから貰えると、なんだか救われた気がします。やった甲斐があるというもの。
認められると自信がつきます。自信は次の一歩を踏み出す活力につながる。アニメに関わる仕事も、それ以外の仕事も、なんにだって言えること。仕事を続ける支えになります。
肯定や感謝を声や形にして伝えるって、大切なことなんですよね。
アニメ業界としては「Blu-rayやDVDを買ってほしい」がより現実的な言葉だと思いますが、作り手としてまず欲しいのは、やっぱり「面白い」という評価ではないでしょうか。
みなさまだったら、どんな言葉が報われますか?
色彩豊かなイラスト
表紙の女の子はもちろんかわいいのですが、特に瞳の色づかいに目を奪われました。描かれる登場人物もみんな個性的で表情豊か、一目でキャラクターの特徴が分かります。
イラストを担当されたのは裕(@youcapriccio)先生。ホームページを拝見させていただいたのですが、制作イラストはどれも心が潤う鮮やかさでした。
挿絵でも鮮やかで柔らかなタッチは損なわれていません。ぜひご確認くださいませ。
まとめ
アニメの脚本家という仕事の現実的な事情が垣間見えた作品。でも決して重苦しい内容ではなく、ドタバタ感のあるエンターテインメント作品と言える内容でした。
掛け合いのテンポが良くて、受け答えがリズミカルに読み進められるのは、さすが脚本家の書く小説だなと妙に納得してみたり。
今後、アニメのスタッフロールで脚本家さんの名前を見るたびに「この方はいろいろな無茶振りをされて、寝ないで書き上げたのかな……」なんて想像をしてしまいそうです。
以上が『きゃくほんかのセリフ!』の感想です。ここまでご覧いただき、ありがとうございました。