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フリー朗読シナリオ『寄る辺無き魔導の最奥(Lルート)』

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朗読にご利用いただけるフリーシナリオ『寄る辺無き魔導の最奥(Lルート)』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

 ご利用のお願い事はシナリオのあとに記載しておりますので、ご覧ください。

『寄る辺無き魔導の最奥(Lルート)』本文

「お金持ちになってキラキラしたい!だから『魔導の最奥(さいおう)』取りに行こっ!」

エリスはいつも通り、唐突にやってきて要件を述べる。
今回は私が魔導士ギルドに行く途中、昼食にほうれん草のグラタンを食べているタイミングだった。

彼女はテーブルの向かいに座ると、私の返事を待たずに話を進めた。

南東の山を越えた森の奥にある遺跡。
そこに古代の魔導士が封印した秘宝『魔導の最奥』が眠っている。
しかし遺跡には仕掛けが施されており、一人での探索は不可能。
だから力を借りたい、ということだ。

私はフォークを置いて、指を三本立てた。
ひとつ。私も魔導研究者の端くれ、古代の英知たる秘宝はぜひ見てみたい。
ふたつ。エリスのお金になる話は毎回ろくなものじゃない。
みっつ。私の名前は『あんた』じゃなて『ヘイル』だ。

要点を簡潔にまとめたが、エリスの返答は
「あたしとあんたのコンビならイケる」だった。

はぁ……。
私は伝える努力を諦めてグラタンを頬張る。
ほうれん草の甘味を返してくれ。

数日後、私とエリスは秘宝が眠る遺跡に足を踏み入れた。
石造りの壁や床に経年劣化の形跡はない。魔法で維持されているのだろう。

この遺跡には独自の結界が張られていて、『特殊な仕掛け』が発動している。
それが『物理攻撃の無効化』。
遺跡内の物体には武器による斬撃や打撃が効かない。

「よく分かんないけど、全部魔法でやっつければいいんでしょ」

エリスの思考はシンプルだ。
結論だけを実行する。
そのためか、戦闘では真っ直ぐな破壊力を生み出す。

「祖(そ)にして弄火(ろうか)、毀(き)を穿(は)く烽火(ほうか)、
長蛇狂炎(ちょうだきょうえん)の殃禍(おうか)に座(ざ)するは、
滅(めつ)なる焦熱(しょうねつ)と降灰(こうはい)の終焉華(しゅうえんか)!
『旋陣爆破(ヴォルテックスバースト)』!!」

エリスが詠唱すると、獄炎を彷彿とさせる竜巻が生まれた。
迎撃してきたゴーレムを飲み込み、渦の内部で灼熱を与える。

後に残るのは六体の焦げた石人形。
隣には威張り顔でピースサインを突き出す魔導士。
身を包む真っ赤な衣服は、炎を体現するようだ。

とにかく派手好きで、金好きの彼女。
勉強はからきし苦手で、気に入った魔法しか覚えない。
それでも腕が立つのは、高い魔力という才能に恵まれたから。

彼女が心血を注ぐのは、お洒落して、目立つこと。
まったく、変わった魔導士だ。
地味で孤独に研究を続ける私とは、真逆の生き方をしている。

エリスが羨ましい。

自由な彼女に憧れるから、私は隣を歩いているのだ。

遺跡の中を進み、おおよその構造を把握した。

ひとつの階層は三部屋しかない。
小部屋、大広間、また小部屋が一直線の通路で結ばれたシンプルなつくりだ。

モンスターは存在しないが、大広間には扉を守る守護者としてゴーレムが存在する。
撃破すれば扉が開き、次の階層へ続く小部屋が待っている。

次の階層へ移動するには特殊な転移陣を用いる。
起動には二人必要で、起動させた二人しか次の階層に移動できない。
物理攻撃無効のルールも相まって、この遺跡は魔導士二人一組での探索が推奨される。

私たちの探索は極めて順調だ。
エリスの魔法がゴーレムたちを蹴散らす。

「燃ゆる炎、爆ぜる弩豪(どごう)、破砕せよ仇なす祖楼(そろう)——
『火炎球(ファイヤーボール)』!」

私が敵を観察、弱点を見つけてエリスが攻撃。
作戦と呼べる内容でもないが、適材適所の役割分担だ。

もちろん私も戦うが、一般レベルの魔力では遺跡のゴーレムに通用しない。
だから不足を補うための研究を重ね、編み出した技術が『短縮詠唱(たんしゅくえいしょう)』。

「『凍刃撃(フリーズブレイド)』!』

魔法を詠唱せずに一声で生み出した氷の剣が、不意を突いたゴーレムの腕を切り落とす。

短縮詠唱。
それは体内の魔力を大気中の魔力に連結させる手段である詠唱を破棄、
『ラストワード』のみで発動させる技術。

即時発動できる魔法は、実戦で強力な武器となる一方、
詠唱を用いる発動よりも、多くの魔力と集中力を必要とする。

おそらく短縮詠唱の理論を確立した魔導士はまだいない。
もしくは私と同じく、公表していないか。
使い手は私の知る限り、直接教えたエリスだけ。

魔導士は自分の研究成果をむやみにひけらかさない。
研究成果は努力と苦労と費やした時間の結晶。
金や名声と引き替えにできるほど、軽くない。

もしも誰かに伝えるなら、それは自分にとって価値を失ったとき。

発見当初は貴重な技術でも、世に浸透すればその価値を失う。
だから最新の成果に浸るより、次の発見に進む。
魔術の研究に終わりはない。つらくても苦しくても、探求しなきゃいけない。
それが私のポリシーだ。

「ヘイルって初めて会った時からずっとそうだよね」

転移陣の小部屋で休憩中、エリスが口にした。
彼女はマントを外してブーツを脱ぎ、裸足になって寝転んでいる。
緊張感の欠片もない。

話題は互いの趣味嗜好についてだ。
私がエリスにして気をする。
物理攻撃が無意味な場所に、短剣を持ち込む理由が分からない。

するとエリスはお洒落の一環であり、常時見た目にこだわるべきと反論した。
まったく理解が出来ない。

初めての出会いもそうだ。
私の研究小屋にいきなり訪ねてきて「ダンジョン行かない!?」と誘ってきた。
まったく意図が分からない。

その日から私の時間は不安定で、やかましいものになる。
意味不明に始まった縁は今日まで一年間続き、苦楽を共にしてきた。
なんだかんだ、私は楽しい。

エリスは私に無いものばかり持っていて、きらきらと輝いている。
だから私のことを「相棒」と呼んでくれた時は嬉しかった。
孤独で地味でつまらない自分でも、光る星の隣にいてもいいよと言われた気がして。

この先も、エリスと冒険が出来ることを願っている。

暗きに灯せ、安寧(あんねい)の恒星。『霊光(フロアライト)』。

転移先の暗闇を払うため、私は魔法の光を生み出す。
休憩を終えて、私たちは第六階層にやってきた。
おそらくここが最後のフロア。

第一階層で扉を守護していたゴーレムは六体。
それが階を進むごとに一体ずつ減っていき、この第六階層では単体になった。
今までの人型と異なり、サイコロのような立方体の岩。

おそらく一筋縄じゃ行かない。
そう読んだ私は戦闘開始から敵の分析に集中し、作戦を決めた。
エリスにはおとり役として動いてもらい、私は詠唱を始める。

一閃する光陰(こういん)、双眼(そうがん)貫く暗淵(あんえん)、
極冠(きょっかん)の女帝命ずるは秩序の行進(こうしん)、
なぞる凍星(いてぼし)五夜(いつや)に伝う、
六馬(りくば)嘶(いなな)く天牢雪獄(てんろうせつごく)……があ゛ッ!

宙に浮いた六面体のゴーレムが熱光線を放ち、私の左肩を貫く。
飛びそうになる意識を無理やり引き戻し、詠唱を再開する。

……無限の氷雨(ひさめ)に玖矩(くく)の白銀(はくぎん)駆けるとき、
我(われ)が放つは絶対零度!
『閃翔氷穿弓(グレイスト・アロウ)』!!

伸ばした手の先に、突撃槍(ランス)の何倍も太く、鋭利な氷柱(つらら)が生成される。
脳内で弓を引くと、氷柱は放たれた矢のように疾走し、ゴーレムの弱点を貫いた。
瞬間、ゴーレムは床に落下して粉々に砕け散る。

張り詰めていた緊張が途切れ、私は床に座り込む。
エリスが心配そうに肩の出血を見るが、私は歯を食いしばって立ち上がる。
彼女に暗い顔は似合わない。

応急処置を済ませて扉の奥に進むと、例に漏れず小部屋があった。
しかし中に転移陣はない。
ここが最終地点、古代の秘宝『魔導の最奥』はここにあるはず。

興奮するエリスを落ち着かせ、部屋を探索する。
特別目を引くものはないが、部屋の奥に飾り気のない台座があった。
その上には二枚の石板が並べて置いてある。

書かれている文字は記録だろうか。
私は右の石板から読み始めた。

記されていたのは、遺跡の主の苦悩だ。

家族や俗世を捨てても、魔導の最奥には至らなかった。
原因は孤独にしがみつき、他人との交流を断ったこと。
見識は狭くなり、研究意欲も維持できない。閃きも枯渇(こかつ)する。
持たざる知識と発見は、他者に譲り受けよ。

いつの時代も、人の悩みは変わらない。
研究がつらく苦しいと感じていたのは、私だけではないようだ。
先人に習い、相棒とどこかに遊びに行こうか。

となりでエリスが情報の価値を聞いてくるので、パンひと切れにもならないと伝える。
石板自体もいくらで売れるか……こっちも期待しない方がいいかも。

左の石板を読み始めたとき、エリスに呼ばれて振り向いた。

「『霊光(フロアライト)』!」

眼前に生まれた光で、視界が白くつぶれる。
そのまま床に倒され、馬乗りにされる感触。
視力を取り戻すと、エリスが私に短剣を向けていた。

「短縮詠唱って便利ね。不意打ちにピッタリ」

私は混乱する頭を整理して、冷静にたずねた。

命、奪うの?

エリスはいつもの調子で肯定する。

「独り占めした方がいーっぱいお金が手に入るでしょ。

……そうよ。
あんたを利用すればお金儲けできると踏んで、声をかけたの。
魔導研究者として有名なあんたがいれば、あたしじゃ受けられない高額依頼も受理できる。
きっとお金もじゃぶじゃぶ稼げると思ったんだけど……苦労する割にしょぼい金額ばーっかり。

あんたに聞いた魔導理論を売ろうとしても、あたしの頭じゃ無理だったし。
短縮詠唱も簡単な魔法で使える程度。ぜんぜん役に立たない。

あたしはもっともーっとお金が欲しいの。
キラキラ光る宝石を身に着けて目立ちたいの。
でも今のままじゃ無理だから、あんたと縁切って、別の方法考える。

安心して。あんたの家の中の物は全部売り払っておくから。
貴重な情報もあるかもしれないし、ちょっとは期待できるかな。

つまんないあんたにつきあって一年間も我慢したんだから、
それくらいの手切れ金もらう権利、あたしにあるわよね?

……相棒?
えぇそうね。あんたはいい相棒だった。
地味で根暗なあんたがいれば私は引き立つ。
とってもいい相棒だった」

短剣が心臓の真上に掲げられる。

「あんたは頭がいいから分かるでしょ。短縮詠唱より突き刺すほうが早いって。
じゃあ、あたし一人で帰るから。ばいば——がはっ」

短剣の落ちた音が響く。
エリスの腹部には、一本の氷柱が刺さっている。
床に転がり、衣服に溶けていく赤い染みを抑え、荒い息遣いに疑問符を乗せている。

私が使ったのは短縮詠唱じゃない。
『無音詠唱(むおんえいしょう)』だ。

ラストワードさえ音声化せず魔法を発動する技術。
短縮詠唱以上に疲弊するから、せいぜい氷柱(つらら)一本が限界。
でもそれで充分だった。

床に染みが広がっていく。
時間は少ない。

何を伝えよう。
無音詠唱は短縮詠唱の理論を発展させた、現時点で最高の研究成果だと説明しようか。
いいや、エリスは勉強が苦手だ。
もっとシンプルで、分かりやすいことを伝えよう。

一年間ありがとう。
いろいろあったけど楽しかったよ。

私はお金なんて興味ない。
言ってくれれば、いくらでもあげたのに……。

いまさらもう、彼女には聞こえない。

はぁ……寒いな、この部屋……。
そうだ。石板。

私はここに来た目的を思い出し、未読の石板に目を向ける。
空っぽになった自分を満たすように、ゆっくりと読み進めた。
記されているのは、古代の魔導技術についてだ。

……あははっ。
研究者の悩みも同じなら、考えることも同じだ。

この石板も、価値がない。

書かれた内容は、今や学校の教科書に書かれていることばかり。
魔導の研究が進んだ現代、数百年前の知識なんて誰でも知っている。

発見当初は貴重な技術でも、世に浸透すればその価値を失う。
情報も同じだ。鮮度や価値は時間と共に低下する。

つまりこちらの内容も、パンひとつ買えない。
あとは石板自体がいくらになるか……どうでもいいけど。

目標だった秘宝はハズレで、憧れの彼女はもう輝かない。
魔導の最奥で寄る辺を無くした私に、孤独が戻ってくる。

<終>

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作者:竹乃子椎武
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