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【声劇台本】しょうもない魔法が世界を救う(2人・15~20分)

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作品情報

・2人掛け合い
・登場人物
私:男性、29歳、会社員をしながら趣味で物語創作をしている
友人:男性、29歳、親に仕送りをもらいながら小説家を目指している
・朗読時間:約15~20分
・備考:Mはモノローグ(心の声)

『しょうもない魔法が世界を救う』本文

私M 太陽の光が地面の雪をゆっくりと解かす、休日の昼下がり。
   私はいつものように、駅前の小さな喫茶店を訪れた。
   一番奥の窓側の席、三十路手前の瘦せこけた男が座っている。
   年季の入った服装とすました顔で外を見ているが、間違いなく私の存在に気づいている。
   私が無言で対面の椅子に座ると、その男——ジュンジーは飄々とした口調で切り出す。

友人「よっ、久しぶり。お前歳くったなあ」

私「一か月前とどこがどう老けたのか教えてくれ。あー、ホットココアください」

友人「俺の見立てじゃ、目じりのしわが三本増えて、骨密度が若干低下してる。スポンジくらいスッカスカ」

私「若干の範疇越えてるだろ。適当過ぎるわ」

友人「馬鹿、俺は二十四時間、起きてるとき以外は真剣だっつーの」

私「悩みがなさそうでうらやましい」

友人「山ほどあって窒息しそうだわ。もがくのも限界だ。今日も高いビルから飛び降りたけど、死ねなかった。一階から飛び降り自殺したニュース見たら俺だと思ってくれ」

私「一生見ないから安心しておく」

私M 息をするようにいい加減な言葉が出てくる。
   高校で知り合ってから今日まで、相手をし続けて早十数年。
   私もつくづく、付き合いがいい。

友人「今日はお前に報告があるんだ。実は俺、魔法が使えるようになった」

私「…………帰る」

友人「俺もついてく。ここ払っといて」

私「水も飲んでないのに!?」

友人「俺はコーヒー飲んだから」

私「ならお前の出費だよ! はぁ……で、どんな魔法なんだ?」

友人「すごいぞ、地球を破滅から救うくらい」

私「環境問題でも解決してくれるのか? 平和で綺麗な世界にしてくれるなら、ここはおごってもいいぞ」

友人「マジで!? ちょ、店のメニュー全部頼むわ。でも残すともったいないから代金だけ頂戴」

私「金はやらんしジャッジしてから注文しろ。で、どんな魔法だよ」

友人「説明するより実際に見せたほうが早い。そうだな……お前の胸ポケットに黒いボールペンと赤いボールペンがささってるな」

私「ん、これか」

友人「あーそのままでいい。……二色ボールペンの方が便利じゃね?」

私「二色ペンはしっくりこないというか、書き味が好きじゃないんだ」

友人「その割に使ってるところ見たことないぞ。俺は気取るための飾りだと思ってた。ダサいなこいつって思ってた」

私「ひどい誤解だ……ジュンジーの前じゃ使う機会がないだけだよ。このボールペンを書き味そのままで二色ペンにでもしてくれるのか?」

友人「なんでそんな役に立つことをしなきゃいけないんだよ」

私「そのセリフで期待値が急落したわ」

私M 気がつけばジュンジーのペース。しょうもないやりとりが始まっている。
   こいつと話しているときだけは、高校時代に戻ったようだ。
   あだ名で呼んでいるせいかもしれない。
   ジュンジーは私の胸ポケットに両手をかざして、眉間にしわを寄せた。

友人「んー……小説家になって会社を辞めて女子高生にモテたい独身男に幸あれ!」

私「なに……? 今の」

友人「俺がお前に思っていること」

私「なんでこのタイミングで伝えた!? 胸に秘めとけ!」

友人「じゃあ女子大生にしてやるよ」

私「学生の枠から飛び出せ! 好きなんて一言でも言ったか!? 早く魔法見せろ!」

友人「もう終わった。どっちのペンでもいいから何か書いてみろ。ほれ、紙ナフキン」

私「……!? 黒いペンなのに文字が赤い! こっちは……赤ペンは文字が黒くなってる」

友人「どうだすごいだろ! あがめろ、たてまつれ! 金銭を納めろ!」

私「すごい……けど、しょうもないというか……中身のインクはそのままだし……どうやったんだ?」

友人「魔法だつってんだろ。理屈は分からんから聞くな」

私「ペンの色を入れ替える魔法なのか?」

友人「いや。俺が意味ねーなーと認識している存在を、誰かの役立つモノに変化させる魔法」

私「なんだそのさじ加減満載な魔法は……こんなあべこべなペンどうやって役立てるんだよ」

友人「話のネタになる。お前は俺みたいな奴相手だとしゃべるけど、自分から切り出すの苦手だろ。だから会話のきっかけに使え。友達思いだな俺は」

私「これ使うんなら天気の話でもするわ……とりあえず使いしにくいから戻してくれ」

友人「それは無理。俺の魔法は一方通行だから」

私「かっこよく言うな、ドヤるな、そして注文しようとするなコレで奢るわけないだろ!」

友人「優しさに免じろよ。人の行為は素直に受け取るもんだぞ」

私「むしろ損害を被ったんだけど。いくつか質問がある」

友人「一回二千円」

私「払うわけないけど、いつから出来るようになったんだ」

友人「あれは三日前だった。靴下の右と左を間違えて履いた夢の中に白いひげの爺さんが出てきて、この魔法をくれた」

私「ツッコまないからな。その魔法は何か代償が必要なのか? その、ゲームでいうマジックポイント的なやつ」

友人「チキチキチン♪」

私「勝手に支払った!?」

友人「夢の爺さんは精神力を使うみたいな、たわごと言ってたな。たしかにちょっと疲れる感じはある。今も200グラムのダンベル一回上げたくらいの疲労感があった。持ったことないけど」

私「対価はあると。自分のためには使えないのか」

友人「それができたらとっくにハンバーグセットライス大盛頼んでる」

私「あとは変化量だな。例えばゴミを……この紙ナフキンだったらどのくらいのモノに変えられる?」

友人「おいおい、文字を書いただけでまだ使えるだろ。お前地球にも優しくないな。そういうとこだぞ」

私「……質問を逆にする。花に変化させるなら、どんなモノが媒体になる?」

友人「お前の実家、花屋なんだから買ってくればいいだろ」

私「欲しいわけじゃないんだよ! はぁ……他に魔法でどんなことをしたんだ」

友人「子供のそばでぷかぷか吸ってるおっさんの煙を、てりやきハンバーグが焼ける煙に変えた。それから大音量で洋楽流して走っている車の曲を粗大ゴミ無料回収業者の宣伝に変えた。すぐボリューム下げたな。あと電車の中で、大股開きで座ってるサラリーマンのズボンを磁石にしてくっつけた。ウケたなあれは。変形中のロボットみたいにガシーンって両足キレイに閉じてすげービックリしてんの。はははは」

私M せせこましい規模の変化ばかりだが、魔法自体はきわめて強力だ。
   質量や自然界の法則を丸ごと無視して物体を変化させる。
   使い方次第で錬金術も可能だろうが……いかんせん術者は適当男のジュンジーだ。
   周りが考える使い方はしないだろう。
   ただ悪用はしない。そういう奴だと、僕は昔から知っている。

友人「本当はさ、若い女の子にちチヤホヤされて金をジャブジャブ貢ぐ小説家になりたいってお前の夢を叶えてやりたいんだ」

私「語ったことないけど。一秒も考えたことないけど」

友人「でもできない。友達が捕まるとつらいから」

私「未成年を恋愛対象から外せ!」

友人「まあ落ち着け、ほら、ホットココア来たぞ。この店の美味いよな。俺は飲んだことないけど」

私「知ってるよ。だから毎回頼んでるんだ……ん?」

友人「(にやにやしながら)どうした?」

私「いや、なんかいつもと味が違う……色は同じだけど、どこかで飲んだ味……子供の頃に飲んだことあるような……お前、何した?」

友人「なぜ分かった」

私「にやついてるからだよ」

友人「お前のためを思ってさ、ココアをカルシウムと鉄分たっぷりの麦芽飲料に変えた」

私「いや……地味、しょうもな! もっと変えろよ、オレンジジュースとか」

友人「必要なのはカルシウムだろ、イライラも収まるし、骨密度も上がる」

私「声を荒げているのはお前のせいなんだよ。え、いつ魔法を使った?」

友人「さっき唱えてたろ。女の子にチヤホヤされて貢いで捨てられた実体験を小説にしてプロになりたい友達を応援するって」

私「ちょいちょい改定するな! え、それ呪文なの? 両手をかざすんじゃないのか?」

友人「さっきはそれっぽくなるからやったけど、疲れるからやめた」

私「こっちはお前の何倍も疲れてるよ」

私M 言いながら私はホットココアだったものを飲む。
   一息つく私を見て、友人は満足そうに笑っている。
   きっとジュンジーのような生き方は楽しいに違いない。悩みとは無縁なのだろう。
   そんなジュンジーがポケットからUSBメモリを取り出し、テーブルの上に置く。

友人「ほい、今回の小説も面白かった。感想はいつも通り中に入ってるから」

私「ありがとう」

私M 私も同じように懐からUSBメモリを取り出し、ジュンジーに渡す。

友人「もう読んだのか? 長編だったのに」

私「やめどきがないんだよ、お前の小説は」

私M 私達には小説を書くという共通の趣味があった。
   それが分かってから、互いの作品を見せて批評し合うようになっている。
   今の時代、データのやりとりなんて物理的に交換する必要はないが、こうして定期的に会ってメモリを渡し合う行為は、実のところ嫌いじゃない。
   高校を卒業しても繋がっているのは、この習慣のおかげだろう。

私「こんな話よく思いつくな。特に終盤、オープニングのくだらない会話が本心を語っていたって分かったときはかなり驚いた」

友人「褒めても1万2千円は帳消しにしないぞ」

私「さっき六回も質問してたのか……絶対払わないけど。これ、次の文学賞狙えるんじゃないのか?」

友人「駄目だよ。駄目だった」

私「もう送ってたのか」

友人「お前こそ書いたやつ送ってみろよ。俺は引っかかると思う」

私「趣味のレベルじゃ知れてるって。狙うならジュンジーみたいに本気で打ち込まないと」

友人「才能あるよ、お前は。俺と違ってさ。会社なんて辞めりゃいいじゃん」

私「簡単に言うな」

私M だけど簡単にできないことを、ジュンジーは何年も続けている。
   努力と独特の感性によってつくられた作品は、書店に並ぶ小説に負けずとも劣らない。
   当然だと思う。
   安定を捨てて、充実を捨てて、人生のすべてを小説に注いでいるのだから。
   私はその姿勢を尊敬しているし、報われて欲しいと一番近くで願っている。

私M ただこうも思う。
   もしかしたら私は、居心地のいい場所から、夢を追い続けている友人に自分のそれを重ねて、満足感を得ているのかもしれない、と。
   自分の罪悪感を少しでも減らすため、テーブルの端に置かれた伝票を引き寄せた。

私「ジュンジーがプロの小説家になったら、今まで奢った分は一括で返してもらうよ」

友人「おう、倍返しだ。千分の一倍にして返してやるよ! へへ……でもまあ、踏み倒すけどな」

私「させるか。受賞者にお前のペンネーム見つけたら鬼のように電話とメールするから安心してくれ。それに死ぬまで書き続けるって言ってたろ」

友人「ああ。俺は嘘はつかない人間なんだ。冗談と適当なことと、いい加減なことは言うけど」

私「それはそれでどうかと思う」

友人「親とさ、三十までに夢が叶わなかったら普通に就職する約束してたんだ。その条件で仕送りしてもらってた」

私「……へぇ」

友人「だからこの作品がラストチャンスだったんだけど、つかめなかった」

私「最期ってなんだ。働いても小説は書けるぞ」

友人「でも時間は確実に減る。今より質は落ちる」

私「やってみないと分からない」

友人「分かるよ。働いたことないけど」

私M 言いたいことは分かる。
   どうしても仕事が第一優先になるし、創作のモチベーションを保つ気概も時間の確保も難しい。
   ただ、それが当たり前なんだと思う……思ってしまう。
   ふざけた奴だがジュンジーは頭がいい。それくらい理解しているはずだ。
   それでも口に出すほど、悔しいのだろう。
   ふざけた言動にくるまれた情熱が染み出している。

友人「……しょうもないよな、いろいろ」

私M ジュンジーが窓の向こうを眺めた。そこは休日の駅前の風景。
   すぐ目の前の通りで、歩きスマホの若者が老人とぶつかりそうだった。
   店の前に立つ派手な服装の中年が吸っていたタバコを落とし、積雪の上で踏み消す。  
   ラクガキされた自動販売機の足元には、飲みかけのペットボトルやゴミ箱が置かれている。
   世界はいつも通りだ。

友人「俺さ、なんでこの魔法が使えるようになったのか考えたんだ」

私「うん?」

友人「今まで自分の好きなことに打ち込んで、何も得られなかったツケを清算しろって、少しでもこの世界のためによいことをしろってことなんだと思う」

私「夢の中の爺さんがそう言ったのか?」

友人「受け手側の解釈だよ。しょうもない人間にはピッタリの魔法だよな」

私「好きなことに打ち込むことは、別に悪いことじゃない。ジュンジーが本当にしょうもない人間だったら、とっくに付き合いはなくなってるよ」

友人「……俺に言われたところでだけどさ、お前は小説を書く才能がある、自分を信じて、送ってみろって」

私「なんだよ急に。お世辞を返すなら、今までのおごった分を返してくれよ」

友人「さっきの質問に返答する。金なんてお前の文才でいくらでも稼げるって。ベストセラー書いて、パンパンの財布持って、口に出せないことを金の力で見境なく好き放題やってくれ」

私「シンプルにクズだな! それにさっきの答えって……お前、なんかふらふらしてるぞ」

友人「あー減ってるわー……マジックポイント的なものがガンガン減ってるわー」

私「そうやって減るのか……今度は何に魔法使ったんだよ」

友人「これ、ジュース欲しさに二回献血したときの感じと一緒だ」

私「いい大人がそれくらい買えよ、しょうもないな! お前こそ、この麦芽飲料飲め!」

友人「俺は鉄分を補給するならトマトジュース派……だか……ら」

私M ジュンジーが椅子から転げ落ちた。
   私が声を上げると同時に、窓の向こうからも悲鳴が聞こえる。
   思わず外を見た瞬間、目撃した。
   店先でタバコを吸っていた中年の姿がいきなり消えた。
   いたるところで人が消えている。
   消えた場所から、地面の雪を割るように白、紫、ピンク、青、色とりどりの花が咲き始めた。

私「あれはたしか……ミスミソウ」

私M 花の名前を思い浮かべた直後、これがジュンジーの魔法なんだと理解した。
   ミスミソウの花言葉は「自信」と「挑戦」。

<終>

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