シナリオ・台本

【声劇台本】月と太陽とキミの思い出(1人・15~20分)

作品情報

・現代劇/一人読み
・登場人物
彼氏:男性、19歳、大学を中退している
・朗読時間:約15~20分
・備考:基本的に一人語りです。シーンを5→4→3→2→1に並べ替えると時系列通りの流れに変わります

台本のご利用について

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①台本のタイトル
②作者名(竹乃子椎武)
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『月と太陽とキミの思い出』本文

<シーン1>

 美しく丸い太陽。水平線の上で煌々と光を放つ。
 ボクは今、海の見える公園にいるよ。
 キミはいつもこの芝のうえに寝転んでいたね。何を考えていたのかな?
 将来作る映画の構想? 次に買うアンティーク品のこと?
 それとも大学卒業後のことかな。

 もしも、ボクのことを考えていてくれたらなら、とても嬉しい。
 正解はどれだろう。なんて聞いても、君はもう答えてくれない。
 口に出しても、きっと天邪鬼のようにひねくれた言葉だろう。
 キミの価値観は世界を逆に見るから。
 でも大丈夫、僕が一番分かっているから。世界中が理解しなくても、ボクは理解するよ。
 
 キミを誰よりも愛している。もう誰にも渡さない。いつまでも一緒だ。

 失ったものは多いけど、あの男からキミを守った。それだけでボクは充分だよ。

 スーツケースをまくら代わりに寝転ぶ。大きすぎて枕の代わりにはならない。
 でもこれがキミの膝だと思えば、幸せな気分になれる。

 さあ、次はどこへ行こうか。

<シーン2>

 町行く人の足取りが、心なしか軽く見える金曜日。

 キミはこの映画館をよく利用していたね。
 朝一番の上映だと、大学の講義をサボって観に来ることもあった。

 映画を撮りたい。夢を語るキミの瞳は、遠目にもダイヤモンドのように輝いていた。

 この古いスーツケースも、好きな映画の主人公が使っていたものらしいね。
 年代物でずいぶん重いし、キャスターも錆びて回りが悪い。
 利便性に欠けるとボクは思う。本当にキミは古い物が好きだ。

 ボクがもっといい物を買ってあげると言っても、頑なに拒む。
 お金の類は一切受け取らなかった。もっと甘えてくれても良かったのに。
 キミのためなら、どんなものでも買ってあげたかった。

 キミがバイトしていたファミレスにも寄っていこう。
 ここから62メートル離れた……ああ、あそこだ。
 もしかして、映画館が近いから選んだの?

 ボクが様子を見に行ったら、キミはすぐ裏に引っ込んでしまう。
 ウエイトレスの制服が恥ずかしかったのかな。心配ない、キミは何を着ても可愛いから。

 今はもう、その姿をまぶたの裏にしか見ることができないけど。

 店の近くまで来ると、停車するパトカーに気がついた。あの男が通報したに違いない。
 自分の悪事を棚に上げて警察を利用するなんて、どこまでキミを苦しめるのだろう。

 ボクは足早にその場を離れた。

<シーン3>

 真っ青な壁にミントグリーンのレトロな扉。
 路地裏に構える小さな骨董品店は、キミのお気に入りだったね。

 入店すると、ちょうど午後三時を知らせる時計の音が鳴った。
 初老の店主がいぶかしげに僕をにらみつける。
 キミと同じく何度も来ているのに……どうも好かれていないようだ。

 それとも、スーツケースが展示された商品に接触しないか、心配しているのかもしれない。

 通路の幅は大体90センチ、対してスーツケースの幅は目算で60センチ、普通に歩けば接触しない。少しは常連客を信用してくれ。

 この店は家具や小物以外に、古い電化製品も並べている。
 キミの部屋にあるビデオデッキも、ここで買ったんだよね。
 ただでさえ安かった物をさらに値切ったと、自慢げに友達に話していたのを聞いたよ。
 大量のビデオテープは「宝の山」とも語っていた。

 古い映画なんて、動画配信サイトで簡単に見られるのに……「デッキで見るから趣がある」なんて言われても、友達もボクも理解できないよ。
 でもボクはキミの見る世界に共感したいから、言葉から真似ているよ。
 独特の世界観から生まれる映画を、見てみたかった。

 キミは明かりを消して一本映画を観るのが日課だったね。
 疲れているのに目をこすりながら観て……途中で寝てしまうこともあった。
 ボクはそっと毛布をかけて、部屋を出て行ったこともあるんだ。気づいていたかな?

 キミの寝顔は何度見てもかわいい。世界中の男に恨まれてもいいから、独り占めしたい。
 だから絶対に守ろうと誓いを立てた。

 そろそろ行こうか。次も思い出がたくさんある場所だよ。

<シーン4>

 大学のキャンパスを歩くのは久しぶりだ。
 ここはキミとボクが初めて出会った場所だ。
 机の中に忘れたノートを取りに講堂へ戻ったら、そこでキミが寝ていたんだよね。
 日向で丸くなる子猫みたいに愛らしい寝顔を見て、ボクはすっかり心を奪われた。

 起こさないように気をつけたけど、結局起こしてしまって……でも、安眠を妨げた僕を怒ることもなく、笑顔でノートを渡してくれた。優しさに胸を撃たれた。

 それからボクの行く先々でキミを見かけるようになった。
 広い学内で連日見かけるなんて、これは偶然なんて確率じゃ証明できない。
 運命だったんだ。

 ボクは人生で初めて告白した。
 「嬉しい」って答えてくれた時は、天にも昇る心地だった。まさか両想いだったなんて!

 でも付き合い初めのときは、一緒にいるのが恥ずかしかったと思う。
 ボクもそうだったから。学食にうっかりバッグを忘れて行ったときは、直接渡す度胸がなくて、わざわざ学生支援課に届けたよ。ごめん。

 その頃からだ。キミのそばにあの男が現れたのは。

 キミは周りの女性よりも小柄で、個性的で、魅力にあふれていたから、言い寄る男が多いのは仕方ない。
 ボクは寛容だから、男友達と普通に話しているくらいは許せる。
 でもあの男だけは別だ。
 
 キミのそばにすり寄って、監視をするように離れない。
 きっと弱みを握られていたんだろう。
 キミは逃げることも出来ず、男とずっと一緒にいるしかなかった。

 ボクには聞こえていたよ。キミの「助けて」という心の声が。

 守らなければ。使命感が芽生えた。
 自分でも驚いたよ。誰かを好きになると、人はこんなにも強く変われるなんて。

 そしてキミを救った。もうあの男に怯える必要はないんだよ。
 ボクが奪い返したんだから。
 あのときの行動は正しかった。あれがキミを助ける唯一の方法だったんだ。
 ボクの手でキミの――

 警備員によって、ボクは敷地の外に追い出されてしまった。
 辞めさせただけじゃ飽き足らず、出入りまで警戒していたなんて。

 大学側にはキミを守るためと誠意をもって説明したのに、理解は得られなかった。
 それどころか弁明を続けるなら、警察に突き出すとまで脅される始末。
 濡れ衣を着せられたボクは、中退を受け入れるしかなかった。

 後ろめたいことはないさ。失ったものよりも、得られた大きさを噛みしめているから。
 胸を張って空を仰ぐ。今日は雲一つない快晴だ。
 スーツケースの表面が太陽を照り返す。

 そういえばキミは太陽を「月」と呼んでいたね。
 昼間は寝てばかりだから、青空を夜のように見ていたのだろう。
 まったく物の見方が変わっている。
 真逆に世界を感じ取るその言葉は、周りの人にとってはひねくれて聞こえていただろう。 
 天邪鬼なところも、ボクは好きだけどね。

 ボクもキミと同じ世界を生きたい。だから燦々と輝く光源を見て「月が綺麗」と言おう。
 そして月を太陽と呼ぶよ。

 次はどこへ行こうか。
 ここからだと、キミがよく行く骨とう品店が近いね。
 その後は映画館だ、近くにキミのアルバイト先もあるから食事にしよう。
 キミは今日休みだから丁度いいだろう。夜は海の見える公園へ行こう。
 街頭が灯る芝生に寝転びながら、改めてキミへの想いを伝えたい。

 時間はある。月はまだ昇ったばかりだ。

<シーン5>

 ビデオデッキの再生が終わり、自動的に巻き戻る。
 照明の消えた部屋に、カーテンの隙間から青白い光が差し込み、横たわるキミの横顔を照らす。

 どうしてこうなったのだろう。ボクはただ、話がしたかっただけなのに。

 「あの男から離れてくれ」たったそれだけの願いを、キミは拒絶した。
 それどころか、ボクとは付き合っていない。これ以上付きまとわないでほしいと震える。

 何を言っているのか分からなかった。
 最初に気がある素振りをしたのはキミじゃないか。
 大学の講堂でボクに笑顔を向けてくれたのは、好意があったからだろう?

 告白したときに「気持ちは嬉しい」と言ってくれたじゃないか。
 それはつまり、交際してもいいってことだろう?
 ごめんなさいと言ったのも、返事に時間がかかったことへの謝罪だったんだよね。
 たった数秒なんて、待ったうちにも入らないよ。

 なのに、キミは次の日からボクを前に姿を見せなくなった。まるで隠れるように。
 初めは周りに噂されるのが恥ずかしいのだと思った。
 だからあえて距離を取っているのだと。あえてつき合っていないフリをしたんだ。 

 気持ちは理解したかったけれど、いずれはバレることだ。
 だからボクは積極的に会いに行った。
 キミのアルバイトの時間は全部分かっていたから、出勤日は必ず店を訪ねた。
 迷惑をかけないように客として。

 キミが足を運ぶ場所も把握していたから、しらみつぶしに探したよ。
 骨董品店なんて何度足を運んだか。おかげですっかり常連客になったよ。

 上映中の館内で見つけたときは、流石に声をかけられなかった。
 キミの幸せな時間を邪魔したくなかったから。
 だから斜め後ろの席に座って、ずっとキミの横顔を覗き込んでいたんだよ。

 彼女に会いたい。それは彼氏として当たり前の行動だ。
 でも大学はつきまとう行為だと練れ衣を着せ、ボクを退学へ追い込んだ。
 ……分かっている。全部あの男が仕組んだことなんだろう? 彼氏面した偽物が。

 終始キミに付きまとって、そばから離れようとしなかった。
 束縛されるキミが不憫で仕方なかったよ。
 だから男が帰ったのを見計らって、先にキミのアパートで待っていたんだ。
 自宅で二人きりならゆっくり話ができるからね。

 部屋の鍵はキミが講堂にバッグを忘れたときに、スマートフォンで撮影して、3Dプリンターで複製したよ。恋人同士なら合い鍵を持っているなんて普通だよね。
 あの男は鍵を持っていない。
 いくら彼氏面したところで、愛の証を持っているボクには敵わない。

 それを証明するために待っていたのに……キミはたボクを見るなり、逃げるように部屋を出て行こうとした。手を掴めば、今度は大声を上げようとする。
 口を塞いでも暴れてるから、声が出ないように締めつけたら……キミは動かなくなってしまった。

 ボクはキミを取り返したかっただけなんだ、あの男から。
 なのに……どうして……。

 ……いや、取り返したじゃないか。
 キミの身体も、心も、命も、すべて僕が奪い返したんだ。
 これだ、これがボクの求めていた形だ。誰にも奪われない、誰にも渡さない!
 ボクとキミは永遠に一緒だ! ああ……最高の気分だよ……!

 午前2時57分。
 あの男がこの部屋を訪ねてくるのは、午前7時11分から7時19分の間。
 まだ時間はあるけど、念のため早めに家を出よう。
 今日からキミと一緒に大学へ行くのはあいつじゃない、ボクだ。

 せっかく一緒になれたんだ、記念に初めてのデートをしよう。ああ、嬉しいなあ。
 そうと決まれば準備をしよう。安心して、キミの大切なものは持っていくよ。

 まずは……いつも携帯していたビデオカメラ。
 友達には映画のロケーションと話していたのを聞いたけど、途中からボクの姿ばかり追いかけていたね。何に使うつもりだったの?
 これからはずっと一緒なんだから、ボクの映像なんてもう必要ないよね。
 これから新しい思い出を上書きしていこう。
 お気に入りの映画のビデオテープ……四日前と九日前と、十七日前にも観ていたから、よほど好きに違いない。持っていくよ。

 部屋の隅に置いてある、年季の入ったスーツケースを開ける。
 小柄でかわいいキミと対称的で、大きくて無骨なダークカラー。
 これなら余裕で全部入るだろう。

 思い出の品と彼女を詰めて、蓋を閉じた。

<終>

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