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【声劇台本】最果てのドラッグストア(2人・15~20分)

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作品情報

・現代劇/掛け合い
・登場人物
修一(しゅういち):中学生男子、大人しくて勉強好き
良平(りょうへい):中学生男子、活発で行動的、クラスの人気者
・朗読時間:約15~20分
・備考:Mはモノローグ(心の声)、◇はト書き

『最果てのドラッグストア』本文

修一M 耳に残る音は、色を失った花火のようだ。
    白い床には空のペットボトルたちが、寝相を悪くして転がっている。

良平「ストライク!」

修一M 良平はガッツポーズを掲げると、そのまま地べたに寝転がった。

良平「次は修一の番だぞ」

修一「やらないよ」

修一M 僕は本のページに目を落としたまま答える。
    椅子代わりに使っている買い物かごがみしり、と軋む。

良平「教科書なんて読むより身体動かそうぜ」

修一「良平は次から次へとよく思いつくね。新しい遊び」

良平「好奇心旺盛だからな」

修一M 天井に向かって得意げに笑う。
    着崩した学ランは一番上のボタンと、下二つのボタンがすでにない。
    この店の中で遊んでいるときに、ちぎれてしまったのだ。

修一M 僕はよく覚えている。
    トイレットペーパーの山にダイビングしたり、全身に万歩計をつけてどこが一番カウントするか暴れてみたり、台車に乗って人間ペットボトルボウリングしてみたり。
    自由な発想力がうらやましくなる。

良平「かぜ薬の神経衰弱は意外と楽しかったよな。匂いで洗剤を当てるゲームは鼻が持たないし……よし、今度は芸術に挑戦だ。女の人が爪に塗るやつ、あれとか絵具に使えそうだ」

修一M 棚越しに化粧品コーナーを眺める良平。
    そばには栄養補助食品の空箱が散らばる。
    ゴミはゴミ箱に捨てろと、何度も何度も注意したのに。

良平「修一は昔から難しい本ばっかり読んでるな。飽きないのか?」

修一「好奇心旺盛だからね」

修一M 言いながら自分で笑ってしまう。僕も良平も、出会った時から根本は変わっていない。

修一M 僕は勉強が好きで、本だけが好きで、じっとしているのが好き。
    良平は身体を動かすことが好きで、面白そうなことが好きで、どこにでも行く。
    友達も多いし、体育の成績もよくて、明るい人気者。僕とは正反対だ。
    だから友達になるなんて、まったく想像していなかった。

◇回想。中学一年の夏

修一M ちゃんと会話をしたのは去年——中学一年の登山遠足だ。
    宝石のように光る木々の葉と、透明な水色の空をよく覚えている。
    運動神経も体力もない僕は、砂利道の石につまずき転んでしまった。
    服も手のひらも汚れ、切った小指から血が出る。

修一M そのとき、保険係よりも先に飛んできたのが良平だった。

修一M 持っていた水筒の水で傷口を洗い、絆創膏を貼ってくれる。
    ほとんどしゃべったことがない僕に、どうしてそんなことをしてくれるのか。

良平「水くせーな、同じクラスだろ」

修一M 学校側がそう振り分けただけだ。理由にならない。

良平「ばんそうこうを貼ったら、そいつとはもう友達なんだぜ」

修一M 常識みたいに言うけど全然意味が分からなかった。

良平「ばんそうこうの『ばん』は『きずな』って読めるだろ。だから貼ったやつと貼られたやつは絆で結ばれる。だから友達だ。母ちゃんから教えてもらった。漢字は難しくて書けないけどな」

修一M それからの良平はことあるごとに話しかけてきた。
    他の友達と話していても呼び込んくれたし、輪に入れてくれたおかげで僕はどうにかクラスに馴染むことができた。
    良平は僕のできないことが全部できる。僕の持っていないものを全部持っている。
    いろいろなところに連れて行ってくれて、本には書いていないことをたくさん教えてくれた
    良平がいたから、いまの僕がいる。

◇回想終わり。場面は現在に戻る

修一M 出会ったころを思い出しながら、目の前で寝転がっている一番の友達を見つめた。
    良平は大きなあくびをしながら天井を眺めている。
    等間隔に並ぶガラスの棒は、電気がなければ存在する理由がない。
    レジも、パソコンも、電話も、テレビも、みんな一緒。動けなきゃ価値がない。

良平「勉強したって意味ないだろ。もうテストなんてないんだから」

修一「好きだからやってるんだよ」

修一M 僕が良平より得意なことは勉強しかない。だからテストの前になると一緒に勉強をする。
    良平は勉強が苦手だ。
僕の存在価値はテストの点数がいいことだけ。
    頭が悪くなって成績が落ちたら、きっと良平も愛想を尽かして離れていく。
    だからたくさん勉強しなきゃ。

修一M けれど言われた通り、学校でテストを受ける日は来ないと思う。だから僕に価値はない。
    きっと良平は僕と一緒にいても意味がないと思っている。離れたいに決まっている。

修一「ゴミ、片付けるね」

修一M 僕は歴史の教科書を置いて、レジの中から一番大きな袋を取り出した。
    横に倒したトイレットペーパーがちょうど二つ入る大きさ。
    散らばった空のペットボトルと、食べた後のゴミをまとめて袋に突っ込む。
    捨てるのは店の裏にある物置小屋の中だ。

◇修一、店の裏口へと歩いていく

修一M 通路を歩くと空っぽの冷蔵スペースが続く。冷凍食品のコーナーも同じだ。
    ここに来たときは牛乳やデザート、肉や野菜が並んでいたけど、全部捨てた。
    僕ら二人じゃ賞味期限がくる前に食べきれなかったから。

◇修一、店のバックヤードの扉を開ける

修一M 店の奥にある銀色の扉を押し開けて、倉庫に入る。
    肌寒い真っ暗な部屋の先にあるのは、建物の裏に出る鉄のドア。
    僕は使い捨てマスクを耳にかけ、ビニール傘を持った。
    手に張りつくようなドアノブをひねり、僕達を閉じ込める冷たい扉を開く。

◇修一、店の裏口から外に出る

修一M 雪のように降る灰は、今日もしんしんと大地を覆う。
    濁った白は地上のすべてに降り注ぎ、何もかも奪おうと積もっていく。
    今日もアスファルトに人や動物の足跡はない。

◇修一、物置小屋の引き戸を開ける

修一M 滅んでしまった世界を横目に、僕は物置小屋の扉を開けた。
    むわりと異臭が漏れ出て、マスクの下で息を止める。
    飛び回る虫の羽音は不快だけど、安心感も与えてくれた。
    時の流れを感じるのは小屋の中だけだ。

修一M あの日を境に、僕の時間は止まってしまったから。

◇回想、高校二年の秋

修一M オレンジ色の夕焼けが目に染みる放課後。
    その日、僕と良平は町はずれの森にある廃屋に行った。目的は探検だ。
    朽ちた民家は落ち葉に埋もれていた。
    赤、黄色、緑の枯れ葉はばらまいたジグソーパズルのピースみたいだ。

良平「大金を見つけたら二人で山分けしようぜ」

修一M ないと分かっていてもワクワクして、順番に欲しい物を言いあった。
    中は思った以上に暗かったので、僕の携帯電話をライト代わりに進む。
    足元気をつけろよと、良平に何回言われたことか。

修一M 一通り回りながら家の奥まで来たけど、お宝と呼べるような物はなかった。
    携帯電話のバッテリーも切れそうだったので、そろそろ帰ろうかと言いかけたとき、地面が大きく揺れた。
    家中がギシギシと音を立て、僕は怖さで座り込んでしまう。

良平「出るぞ!」

修一M 良平に手を引っ張ってもらい外に出ると、景色は一変していた。
    分厚いコンクリートに塗りつぶされた空。消された夕陽。吸った空気は乾いている。
    踏んだ落ち葉がパリパリと薄い音を立てて、せんべいのように砕けた。

修一「どうなってるの……?」

修一M 頬の皮がピリつく。空気が冷たい。僕は学ランの上着を身体に寄せる。

修一「なんで、雪が降ってるんだ?」

修一M 良平が差し出した手のひらには、白い粉のようなものが乗っていた。
    それは溶けることなく残り続け、指でこすると尾を引く。空から降ってくるものじゃない。
    世界は一体どうなってしまったのだろう。
    分かるのは自分の乱れた息づかいと、うるさく跳ねる心臓の音だけ。

良平「とにかく戻ろうぜ」

修一M 僕たちは来た道を全力で走る。
    やがて見えてきた大きな通りには人の姿がなく、どの建物も明かりはない。
    道路を走る車も見当たらず、信号機は目を開けることなく眠っている。
    知っている町が、知らない町に変わってしまった。

◇修一、一人でコンビニに入って商品を取ってくる

修一M コンビニのレジにお金と書置きを残し、モバイルバッテリーを借りてきた。
    携帯電話に繋いで電源を入れたけど電波がなくて、通話もネットも使えない。
    時間が正しければもう夜だけど、墨汁のにじんだ空は月も太陽も飲み込んでいる。
    互いの家や学校に戻ったけど、誰にも会えなかった。

良平「俺たち、どうすりゃいいんだ……」

修一M 降り積もる白い灰は町を沈め、僕達のこれからを覆い隠す。
    もしも世界に行き止まりがあるなら、そこはこんな風景なのかもしれない。
    終わりは真っ黒じゃなくて、真っ白なんじゃないか。

修一M 走り回って僕たちはへとへとだった。お腹も空いた。寒い。心細い。
    息を吸えば不安が膨らみ、風船のように弾けてしまうんじゃないかと怖くなる。

良平「母ちゃん……どこいったんだよ……」

修一M こんなにつらい声を出す良平を、僕は初めて見た。
    お母さんと二人暮らしだから、すごく心配しているんだ。もちろん僕も家族と会いたい。
    みんなどこに行ったんだろう。なんで僕達だけこんなところにワープしてしまったんだ。

修一M 考えていると、似たような状況に陥る小説を思い出した。
    人間を襲う化け物のいる世界で必死に生き延びる、サバイバルストーリー。
    結末は曖昧だったけれど、大切な人のために生き延びようとする主人公が印象的だった。
    動かなきゃ。絶望が心を喰う前に。

修一M 顔を上げると、目の前に一件のドラッグストアがあった。
    僕は良平に提案し、店内に入る。
    前に母が『ドラッグストアに行けばなんでも揃う』と言っていた。
    きっとここなら、生きるために必要なものがあるはず。

修一M 僕はまず食料をかき集めた。それから身体を温めるためのカイロと肌着。
    冷たい床に段ボールを敷けば身体の熱も逃げない。体調を崩しても薬があれば安心できる。

良平「俺一人だったら、きっと家に閉じこもっていたと思う」

修一M お腹を満たした良平がぼそりと漏らす。
    表情はだいぶ明るくなっているように見えたけど、不安は隠しきれない。

修一「これだけの異常事態なら自衛隊もきっと来る。この町は田舎だから、時間がかかってるだけだよ。みんな先に他の場所に避難したんだと思う」

修一M とにかく明るいことを並べると、良平はカイロをぎゅっと握って立ち上がった。

良平「そうだよな、みんな生きているに決まってるよな! よーし、じゃあ待つあいだに使えそうなものを探そうぜ! ……と、その前に髪と服をなんとかするか。俺たちチョークの粉を被ったみたいに真っ白だ。これから外に出るときはマスクをつけて傘を差さなきゃな」

修一M 僕らは生活に必要なものを揃えた。定期的に店の周りも確認する。
    やることがなくなると置いてある商品でいろいろな遊びをした。
    ほとんど良平が一人で盛り上がっていたけど。

◇回想終わり、場面が現在に戻る

修一M あれから何日経っただろう。携帯電話はカバンの奥にしまったままだ。

◇修一、物置小屋の扉を閉める

修一M 過去を閉じるように物置小屋の扉を閉める。店内に戻ろうとすると良平が立っていた。

良平「なんでこうなっちまったんだろうな」

修一M 両手をポケットに突っ込み、ぽかんと口を半開きにして、明日の来ない空を見上げている。

修一「なんでだろうね」

修一M またいつものやり取りが始まった。何回目だろう。

良平「なあ、いつまでここにいるんだ?」

修一「助けが来るまでだよ」

良平「俺は他の場所に行くべきだと思う」

◇修一、一人で裏口から店内に戻って通路を歩き回る

修一M 僕は答えを出さず、店の中に戻った。
    じっとしていられなくて、無人の通路を当てもなく歩きまわる。
    ぐるぐると、ぐるぐると、同じところを何度も通る。

修一M 外はどんな危険があるか分からない。店の中なら今のところ安全だ。
    だけど助けが来る保証もない。食料はいずれなくなる。
    良平になんて答えるべきだったのだろう。正解は見つからない。

◇修一、衛生用品コーナーの前で足を止める

修一M 立ち止まった場所は衛生用品が並ぶ通路。
    売り場に置かれた絆創膏は、全校集会の生徒みたいに整列している。

修一M 絆創膏の由来を調べたことがあった。
    「絆(ばん)」は結ぶ、「創(そう)」は傷を意味し、「膏(こう)」は塗り薬のこと。
    昔は薬を布に塗って傷口に貼っていたらしい。傷を薬で結ぶということだ。
    そして貼った人は相手と絆を結ぶ。

修一M ふと右手の小指を見た。
    登山遠足で転んだ時の傷は消えたけど、あのとき良平に貼ってもらった絆創膏の感触は今でも覚えている。
    僕は始まりの指輪を忘れない。絆はずっと残っている。
    良平を見捨てることなんて、できるわけがない。

◇修一の隣に良平が現れる

良平「修一にうらやましいって言った時のこと、覚えてるか?」

修一M 僕のとなりに良平が立っていた。

良平「テストの成績、いつもクラスでトップだったよな。すげえよ。俺はそういう、一番になれるものがないから、うらやましかった」

修一M もちろん覚えている。僕にとっては意外な話だったから。

良平「俺は中途半端かそれ以下で、一人じゃ何にもできないやつだからさ。だから友達をたくさん作ったんだ。いろんなやつと仲良くなって、困ったときに助けてもらおうと思って」

修一M なんでもできると思っていた良平は、なにもできないと言った。
    それは僕の抱えている気持ちと一緒だ。自分にはなんの取り柄もないと思っていた劣等感。

良平「こんなズルい俺だけどさ、嫌いにならないで、これからも助けてくれ」

修一M 良平が立てた小指を差し出す。
    ……
そうだ。助けられるのを待つんじゃない。僕が動かなきゃいけないんだ。

修一「……うん。分かった。必ず助ける」

修一M 互いの小指を重ねて、ぎゅっと結ぶ。良平は一緒に遊んでいた時のように笑った。

◇良平が修一の前から消えていく

修一M そして目の前から消えていく。薄く溶けて、色めく粒がきらきらと宙に舞い、いなくなった。
    止まない灰の降る音が、静まり返った店内に注ぐ。
    僕は幻が立っていた場所を通り過ぎ、必要な荷物をまとめ始めた。

◇修一、鞄の中から携帯電話を取り出す

修一M ひさびさに携帯電話を見る。時間はあの日からそう過ぎていない。

◇回想、ドラックストアに来てから一週間後

良平「駅の方に行ってみようと思う」

修一M 唐突に良平が言った。店にこもって何日目のことだっただろう。

良平「何日経っても誰も来ないじゃないか」

修一「外に出るのは危険だよ」

修一M お互いにストレスが溜まっていたんだと思う。僕達は初めて言い合いをした。
    どちらも相手の意見を受け入れられないまま、話し合いに決着がつく。

良平「俺が助けを呼んでくる。修一はここで待っていてくれ。必ず連れてくるから」

修一M 頼もしい表情で、良平は店の外へ出て行った。
    そして時間は止まる。

◇回想終わり、場面が現在に戻る

修一M 僕はどうして『一緒に行く』と言えなかったのだろう。
    自分一人じゃ何も決められない性格を心底憎んだ。

修一M 良平との絆を失いたくない。ずっと一緒にいたい。
    願望から生まれた良平は都合のいい存在だった。
    だから楽しい時間を何度も繰り返してくれる。世界の果てで見る幻は心地がよかった。
    でも僕が過ごしたいのは本物との時間だ。それはここにいても手に入らない。

◇修一、鞄に荷物をまとめる

修一M 鞄に必要なものを詰める。
    水や食料、薬、ライターやテーピングテープなんかも役に立ちそうだ。
    そして怪我をしたときの絆創膏。これで準備はできた。
    店の入り口の前に立つ。外は相変わらず視界が悪くて、先が見えない。
    だけど店内よりは明るく感じた。

修一M 怖くない。怖いのはじっとしたままで大切なものを失うこと。だから動くんだ。
    僕は黙ったままの自動ドアを押し開けた。

<終>

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