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【HEARシナリオ部】2022年7月のシナリオ『猫をかぶったネコ』

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たけのこは音声投稿サイトHEARで「HEARシナリオ部」に所属しています。

 物語創作が好きなユーザーによる部活で、HEAR内で自由に使ってもらえるシナリオを制作・公開するのが主な活動です。

 今回は「動物」をテーマにしたシナリオ『猫をかぶったネコ』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

『猫をかぶったネコ』本文

「よし、完璧……にゃ!」

 鏡の前で、せいいっぱいのキメ顔を見せる一匹のネコ。
 ていねいにブラッシングした三色の毛並みを確認してから、震える手で家のドアを閉めます。

「今日こそあの子に告白する、にゃ!」

 向かうのは雑木林(ぞうきばやし)の中にある、古くて小さいお寺。

 賽銭箱(さいせんばこ)の隣には、今日も白いネコが座っていました。
 揃えた前足は姿勢が良く、毛足はシルクのようにツヤツヤ。パッチリとした青い瞳(ひとみ)のネコです。

 出会ったのは一か月前。好きな本の話題から話が弾み、楽しそうに語る声に魅(ひ)かれて好きになったのです。

 三毛ネコは白いネコの隣に座ると、一輪のお花を差し出しました。
 おこづかいを貯めて買ったチューリップです。

「よかったらボクと、おいしいミルクを飲みに行きませんか! にゃ!!」

「ごめんなさいにゃ」

 あっさりと返ってきた言葉に、三毛ネコは涙を抑えて聞き返します。

「なんでダメなの……?」

「猫を被っているからにゃ」

 白いネコは音もなく立つと、ゆっくり林の中に消えていきました。

 翌日。フラれた話をクラスメイトのキツネに話すと、けらけらと笑われました。

「なんだよ『にゃ』って。お前そんな話し方したことねえだろ。気持ち悪いな」

「カッコつけたかったんだ。ちゃんとした猫だって見せたくて……」

「そんな芝居に馬鹿されるやつぁいねえよ。付き合ったら化けの皮なんて剥がれるんだ。騙すなら完璧に化けろ。それができなきゃ、最初から猫なんて被るな」

 話したあと、キツネが売店でいちごミルクを奢ってくれました。
 なんだか、いつもより味が薄い。そんな気がします。
 

 学校の帰り道。三毛ネコは土手に流れる川を覗き込みました。
 映るのはイケメンとは程遠い、冴えない見た目。テストの点数も良くないし、かけっこだって早くない。自分に自信なんて持てません。

 それでも浮かんでくるのは、好きな相手と話した時間。
 白いネコに対する想いは、ずっと心に残ったままです。
 
「カッコつけてもダメ……だったら今度は、ありのままで告白しよう!」

 三毛ネコはいても立ってもいられず、雑木林に向かいます。
 お寺に到着すると、目つきのとがったオオカミが白いネコに絡んでいました。

「こ、こわい……でも助けに行かなきゃ! やあー!」

 三毛ネコは飛びかかりましたが、紙ふうせんのように跳ね飛ばされます。
 そのとき、白いネコの手がもこもこと膨れて、ゾウのように太くなり、オオカミを一撃で林の奥に吹き飛ばしました。

 元に戻った白いネコが、驚いている三毛ネコに話しかけます。

「助けてくれてありがとうにゃ。でも見たでしょ? だから……さよならにゃ」

「待って! これ、受け取ってください」

 三毛ネコは四葉のクローバーを差し出しました。土手で偶然見つけたものです。

「今のはびっくりしたけど……それでも、よかったら僕と、公園でお散歩してくれませんか?」

「……ごめんなさいにゃ」

 白いネコはしゅんとして答えました。

「私は、あなたが思っているような猫じゃないにゃ」

「君も猫を被っていたから? 大丈夫、僕も被っていたんだからお互い様だよ」

「ちがうにゃ。本当に被っているにゃ」

「……どういうこと?」

 悲しそうな白いネコから煙がもくもくと立ち上り、ぽん、と音が鳴ります。

「ごめんなさい。私……本当はタヌキなの」

 煙が晴れると、ころりと丸い体が現れました。

「私はぽっちゃりしてるし、毛並みもくしゅくしゅして可愛くないから、キレイなネコに化けていたの。今まで騙していてごめんなさい」

 タヌキがすんすんとこぼす涙を、三毛ネコの肉球が受け止めます。

「猫でも狸でも関係ないよ。君が好きなんだ。だからもっと、君のこと知りたいな」

 柔らかなオレンジ色に包まれた夕暮れ。四葉のクローバーを握る手が、そっと重なりました。

<終>

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作者:竹乃子椎武
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