・現代劇/3人掛け合い
・登場人物:3人
A:大学生男子、都会出身でゲームが趣味
B:大学生男子、田舎出身で大人しい
C:傭兵の男、数々の戦場を経験し生き残ったベテラン
・長さ:約15~20分
・備考:◇はト書きです
『それぞれの旗を掲げる』本文
◇紛争地域のとある基地内。遠くで爆発やミサイルの発射音が響く
迷彩服に銃を持ったAが部屋の中で小さい窓を覗いている
A「まさかリアルで銃を持って戦う日が来るなんて……俺の部屋、無事かなあ」
◇遠くで大きな爆発音が響く
A「うおっ! 今のところ基地は無事だけど……レベル1の兵士がベリーハードモードで何ができるんだよ。無理ゲーだろこんなの……!」
◇部屋の扉が開いてBがやってくる
B「大丈夫? いまの結構近かったね」
A「俺は別に何とも。今どうなってるんだ?」
B「遠くで戦っているとしか……ごめん、僕は正規の兵士じゃないから、状況とか全然分からなくて……あ、ちゃんと話すのは初めてだよね。よろしく」
A「お、おう。よろしく。まったく……いきなり侵略ってなんなんだよ。普通に家でネトゲしてたら、あのレッドメールが送信されてきてさ。三日後に徴集、一週間後に迷彩服着てイマココ」
B「僕は田舎だったから、赤い封筒が投函されてた」
A「最初はテンション上がったけどさ、今は一秒でも早く脱ぎたい。なんかぶかぶかだし」
B「本当に急ごしらえの軍隊なんだね。いろいろ整ってないみたい」
A「ただの素人の集まりだぜ、こんなの。銃の扱いだって一回教えてもらっただけだし。そもそも民間人徴兵っていつの時代だよ……ってか、うちの国にも軍隊いるだろ!」
B「ほとんどの戦力を敵国の制圧に向かわせたみたい。そこにつけ込まれてこんなことになっちゃったんだって」
A「そんなゴリ押しプレイでクリアできる戦略ゲームあるわけねえだろうに……誰だよ、そんなヤツ国の代表に選んだの」
B「僕たち国民だよ。っていっても年配の人たちがほとんどだけど。若い世代がもっと投票に行ってたら、結果は変わってたかもって偉い人がテレビで言ってた」
A「ハァ……今度から選挙行くわ」
B「次があるか分からないけどね」
A「ちゃんとニュース見て偉いな。俺とは大違いだ」
B「そんなことないよ。来年には成人だし、ちゃんとしなきゃと思って」
A「マジ? 俺らタメじゃん!」
B「そうなんだ、てっきり年上の人かと思ってた」
A「いやホッとしたわ。この部隊っておっさんばっかりだから、正直息苦しくてさ」
B「僕も安心したよ。田舎者は肩身が狭くて」
A「こんな状態で都会も田舎もねえよ。あー帰ってゲームしてえ~……今はこれしかねえからな」
◇Aが胸のポケットから携帯ゲーム機を取り出し電源を入れる。
B「えっ、どうしたのそれ?」
A「へっへー、上手いこと懐に隠し持ってきたんだ。遠征に携帯ゲーム機は基本だろ?」
B「見つかったら没収だよ」
A「だからコッソリやるんだよ。お前も遊ぶか? アクションと、ロープレと、恋愛ゲームが入ってる」
B「僕はゲーム全然やらないんだけど……恋愛、かあ」
A「お、興味あるのか? コマンド選択式だから誰でもできるぞ。ちなみに俺の推しは幼馴染のツインテキャラだ。デレたらめっちゃ可愛い」
B「幼馴染……あのさ、僕にもいるんだ。幼馴染の子」
A「えっ、リアルで? お前授かりし者だったの?」
B「家が隣同士の同い年、小さいころからよく一緒に遊んでた」
A「初期設定が最高すぎるだろ。誕生ガチャでSSR引いたんだな」
B「最初は仲のいい友達くらいに思ってたんだけど……ちょっと前から、なんかいいな、って思って」
A「なにモジモジしてんだよ……ゲームで満足してる俺にその先を聞かせるのか? アンデットに神聖呪文唱えるのか?」
B「もし故郷に帰ることができたら、ちゃんと告白するんだ」
A「滅ぶぅぅ! まっとうな人間の希望溢れる言葉を喰らって灰になるー! ってかそれ、完全に死亡フラグだろ」
B「死亡、フラグ?」
A「あーなんつーか……後で心臓に流れ弾喰らって人生終わるぞ」
B「なんで!? 縁起悪いこと言わないでよ!」
A「それはこっちの台詞だ。帰りたかったら、あれしたいこれしたいって明るい未来を口に出すな」
B「僕の田舎じゃそんな話聞いたことなかったよ……」
A「一部の界隈での常識だから真に受けるな」
C「おいうるせえぞ! 無駄口たたいてんじゃねぇ!」
◇部屋の扉を乱暴に開けてCが入ってくる
C「チッ……見張りもろくにできないのか。ガキどもが」
B「すっ、すみません」
C「いいか。一人の油断で部隊が全滅することも充分ありうる。遊び感覚で戦場にいられると迷惑なんだよ」
A「こっちだって来たくて来たわけじゃねーし」
C「ああ?」
B「そ、そういえば援軍が向かってるんですよね。僕達、助かるんですよね!」
A「マジでか!? なんだよ早く言ってくれよ~」
C「それは嘘だ」
A「嘘かよ!」
C「本部はこの基地を放棄するつもりだ」
B「ほう……き?」
C「戦略的にここを死守するより、おとりにした方が少しでも敵の戦力を分散できる。敵国にいる味方部隊が帰還するまで、自国の制圧を少しでも引き延ばすための時間稼ぎだな。俺がリーダーならそうする」
B「僕たちを見捨てる、ってことですか」
A「捨て駒ユニット扱い! だったらさっさと逃げようぜ」
C「どこへだ? いま出て行っても見つかるだけだぞ、あいつらみたいにな」
A「あいつら?」
B「そういえば……他のみんなはどうしたんですか?」
C「やられた」
A「えっ、いつの間に!?」
C「一人口の回る奴がそそのかしたらしい。全員で逃げればチャンスがあるってな」
A「声かけられてないんだけど!? ショックなんですけど!」
B「僕は誘われたんだけど……怖くて返事しなかったら置いて行かれたみたい」
C「数が多かろうが所詮は素人集団、軍人相手に逃げられるわけがない。ズドンと一発で全員木っ端みじんだ」
B「もしかして、さっきの爆発って……」
A「ふん、俺をハブったから罰が当たったんだ。てゆうかさっきから偉そうに解説してるけど、あんただって寄せ集めのひとりだろ?」
C「お前らと一緒にするな。俺は金で雇われた傭兵だ」
B「傭兵?」
C「お前らがランドセルしょってた頃から戦場を経験してる。だが、素人集団の引率とガキのお守りは初めてだ。くそっ、報酬がデカい時点で気づけばよかったぜ」
A「そんな職業が現実にいるんだな……だったらどうにか切り抜ける方法を考えてくれよ。あんたプロなんだろ!?」
C「黙れガキ。お前らのために最悪の状況を整理してやる。今まで無事なのは、この基地が森の中の死角に作られているからだ。上空や遠目での発見は難しい。幸運なのはこの一点だけ。食料は底をついてる、弾薬に余裕はない、部隊は足手まとい二人含めた三人だけ、増援は来ない」
A「詰んでるじゃねーか」
B「どうするんですか?」
C「戦うしかない」
A「たった三人で? 一発喰らえば即ゲームオーバーなのに、数も装備も圧倒的有利の軍隊を初見で撃破するの? 絶対クリア不可能だろ」
C「戦場にいる時点で、死は覚悟しとくんだな」
A「だから来たくて来たわけじゃねーって!」
B「自分は死んでもいいみたいに言うんですね」
C「……そうだな。俺は死に場所を探しているのかもしれない」
B「縁起でもない」
C「絶体絶命の場面は何度もあった。そのたびに仲間は先に逝き、俺だけが生き残る。どれだけ失っても、俺の命だけは残っちまう。天国じゃあ、俺は相当恨まれているに違いない」
A「なに中二病みたいなこと言ってんだよ! 生存フラグ立ててるつもりか!」
B「そんなのもあるんだ」
A「どうせ生き残るたびに『俺は戦場の死神』とか言ってあだ名にしてるんだろ! ダサっ! ダサっ! 草生える」
◇CがAの額に銃口を向ける
A「ヒッ!」
C「いいか、俺は貴重な一発でお前の脳みそ吹っ飛ばすより、敵を一人でも減らしたいんだ。ムダ弾使わせるな」
A「わ、分かりました……だから降ろして、銃降ろして……」
C「死にたくなければ瞬きしないで見張れ。敵がいたら知らせろ」
◇Cが部屋を出ていく
B「こ……怖かったね」
A「ケッ、カッコつけやがって! 図星だからキレたんだぜ、あいつ! エセ死神が、いやファッション死神が!」
B「でも、言ってたことは本当みたいだし……そっか、僕ここで死んじゃうのか……」
A「あいつは偽物の死神だ。飲み込まれるな」
B「……昨日、幼馴染に電報を打ったんだ。この戦争が終わったら必ず迎えに行くからって。戦いに参加した人にはまとまったお金が入るって契約だったでしょ、だからずっと二人で暮らそうって」
A「全部死亡フラグ!」
B「なんで!? どこが縁起悪いの?」
A「迎えに行くのも、まとまった金の話も、二人で暮らすのも全部だよ。無自覚とはいえ立てすぎだろ。なに、五本立てると1UPするの?」
B「じゃあ、なんて言えばいいのさ」
A「うーん……戦争は終わらないから迎えに行けない、金も入らない、一緒に暮らせない」
B「そんな電報、意味ないよ」
A「だな……」
◇遠くで爆発音が響く
B「きみは死ぬのが怖くないの?」
A「怖いに決まってんだろ。だから、死にたくない」
B「生きて、なにがしたいの?」
A「いっぱいある。家にはまだ未消化の積みゲーが山ほど残ってるし、もうちょっとで最高ランク取れそうなネトゲを放っておくわけにもいかない。名だたるレトロゲームにも一通り触れておきたいし、来月には好きなシリーズの新作だって……それは、出ないか」
B「ゲーム、好きなんだね」
A「俺にとっては人生だからな。この世にゲームがある限り、俺は死ねない」
B「ははは。じゃあ、君は生きないと」
A「お前もな。告白するんだろ。だから死神に負けるな。次は俺もガツンと言ってやるから」
B「僕はきっとダメだよ。そうだ、これ、幼馴染からもらったお守り、きみが持っていてよ」
A「うおぉぉぉぉい五本目! 1UPしちゃったぞおめでとう!」
◇部屋に再びCが入ってくる
C「うるせえっつってんだろ! その口にサバイバルナイフ刺してやろうか!」
A「うるせえのはお前だ死神! ドアは静かに閉めろってお母さんに言われなかったのか!」
C「……どうやら本気で死にたいらしいな」
◇CがAに銃を向ける。
B「ちょ、銃を降ろしてください! こんなことしてる場合じゃないですって」
A「死ぬ気はないね。未プレイのゲームを消化するまで」
C「命がなくなったら生き返らんぞ」
A「人生に残機がないってことくらい分かってる」
C「どこまでもゲーム感覚のガキが……くだらん」
A「くだらなくねえ。ゲームはいろんなことを教えてくれた、感動をくれた、名曲を聴かせてくれた、努力を教えてくれた、忍耐を鍛えてくれた。俺はゲームに何度も救われた」
C「じゃあこの状況もゲームに救ってもらえよ。お前を生かしてくれるんだろ?」
A「そう信じてる」
近くで爆発音が響く。
B「ひぃっ!」
A「近くないか!?」
C「どうやら基地の場所がバレたようだな」
B「なんで!? うまく隠れてたんじゃないんですか?」
C「逃げた奴らの痕跡を追ったんだろ。思ってたより早いな」
A「見つかるって分かってたんなら言ってくれ!」
C「知らぬが仏っていうだろ」
A「知らないせいで仏になっちまうだろうが!」
B「どどど、どうするんですか!? いっぱい足音しますけど!?」
C「落ち着け……こうなったらここで迎え撃つ。お前ら援護しろ」
A「援護ってどうやるんだよ! 横一列に並ぶのか⁉ 縦か、斜めか⁉」
C「ビンゴの話じゃねえ!」
B「そこまで来てる! ただやられるくらいなら……!」
◇Bが手榴弾のピンを抜く
C「馬鹿っ、手榴弾……!」
A「なんで今ピン抜いたんだよ!」
B「投げたら爆発するんじゃないの?」
A「それはゲームの中だけだっつーの!]
◇BがAに手榴弾を放り投げる
A「いやいらないし!」
C「とにかく投げろ!」
A「どこに!?」
◇ドアを開ける音、その直後に手榴弾が爆発
◇間があって戦闘の後。基地は破壊されボロボロになっている。瓦礫の上に立つC
C「また生き残っちまった……やっぱり俺は戦場のしにが……」
◇瓦礫の下からBが出てくる
B「ぷはっ! い、生きてる……!」
C「(咳払いして)無事だったか」
B「生きてるみたいで……撃たれたと思ったらパニックになっちゃって……すみません、ずっと隠れてて」
C「それでいい。足手まといは戦いの邪魔になるだけだ。それに、戦場で生き残るのはいつも臆病者だ」
B「僕にぴったりだ。でもあなたは勇敢じゃないですか……それに、すごく強かった」
C「相手の不意を突けたのが大きかった。敵もまさか、あのタイミングで手榴弾が飛んでくるとは思っていなかっただろう。数も少なかったからな、俺一人でなんとかできた。だが……」
◇Bが横たわるAのそばでしゃがみ込む。
B「なんで……僕のことなんかかばって」
C「諦めろ。胸に食らったんだ、無事じゃ済まない」
B「せっかく仲良くなったのに……起きてよ、ねえ。死なないって言ってたのに」
A「……嘘つき扱いするな」
B「え?」
A「……生きてるよ」
B「よみがえった! ゾンビだ!」
A「ほんとにアンデット扱いするな。滅ぶのはリア充の話を聞かされた時だけだ」
C「地獄から戻ってきたのか?」
A「ゲームに課金しまくって経済に貢献してる俺は天国にしか行かねえよ。俺も正直、死んだと思った。でもさ……死神、お前の言う通り、俺を救ってくれたぞ」
◇A、胸に入れていた携帯ゲーム機を取り出す。液晶画面がひび割れている
B「携帯ゲーム機の画面が……」
C「銃弾の盾になったってわけか」
A「おかげでもう遊べないけどな。この限定カラーもう手に入らないんだぞ、ったく」
B「奇跡だよ……もしかして生存フラグってやつ?」
A「かもな。どこで立てたんだか」
B「僕は死亡フラグしか立ててなかったのに……どうして生き残ったんだろう」
A「真面目か。そうだな、死亡フラグを立てすぎたせいで、生存フラグが立ったんじゃね?」
B「どういうこと?」
A「いかにも後で退場しそうな発言ばっかりする奴は、逆に生き残るってパターンだよ。フラグって言うか、裏読みだけどな」
B「よく分からないけど……生きててよかったよぉ」
◇BがAに抱きつく
A「抱きつくな! で、これからどうする、死神隊長」
C「勝手にあだ名をつけるな。襲撃の失敗はいずれ敵本部にも知られる……だが時間はあるし、今なら周囲の警戒も手薄だろう。今なら森を抜けて、近くの街に出られるかもしれない」
A「やったぜ!」
B「でも、もし見つかったら」
C「そのときはその時だ。だが基地が壊れたいま、ここにいる意味はない」
A「室内で手榴弾って、初心者ゲーマーの操作ミスかよ」
B「だって……」
C「その辺にしとけ。まずは森を抜ける。バレたら終わりだと思え」
A「銃撃戦の次はステルスアクションか。へっ、今こそ俺のテクニックを見せるときが来たようだな」
B「僕も一緒に行ってもいいんですか?」
C「嫌なら来なくていい」
A「幼馴染とは一生会えないけどな」
B「い、行くよ。僕だって帰る理由があるんだ」
C「ふっ。俺もクライアントに追加料金をたっぷり請求しなきゃな」
A「待ってろよ、愛すべき俺のゲーム達!」
【終】
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