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【HEARシナリオ部】2021年4月のシナリオ『ちょうちょのおかげ』

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 たけのこは音声投稿サイトHEARで「HEARシナリオ部」に所属しています。

 物語創作が好きなユーザーによる部活で、HEAR内に限り自由に使ってもらえるシナリオを制作・公開するのが主な活動です。

 今回は「ちょうちょ」をテーマにしたシナリオ『ちょうちょのおかげ』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

『ちょうちょのおかげ』本文

 むかしむかしあるところに、七色の羽をもつ、ふしぎなちょうちょがいました。
 羽は見る人によってちがう色に変わり、心のまっすぐな人にしか見えません。

 今日もちょうちょはあっちへぱたぱた、こっちへぱたぱた。なにかをさがすように飛んでいきます。

 まっくらな夜の森に、ひとりの少女がいました。
 帰るみちが分からなくなり、迷子になってしまったのです。
 少女はおおつぶの涙をぽろぽろとこぼし、おかあさんのなまえを呼びつづけました。

 こえが出なくなったとき、どこからか白く光るちょうちょが現れました。
 光るちょうちょはゆっくりと森のおくへ飛んでいきます。
 少女がついていくと森のそとにでました。こうして少女はおうちに帰ることができたのです。

 ゆうひがしずむ灰色のとりでに、ひとりの騎士がいました。
 どうしたら平和な世界になるのだろう。こしに下げたつるぎを見て、ため息をつきます。

 へやの窓から外をながめていると、うすむらさき色のちょうちょが入ってきました。
 ちょうちょはふわふわと飛びまわり、すこし空いたとびらのすきまから出て行きました。騎士はどこか気になり、おいかけてへやを出ます。

 うしろでドカン、と大きなおとがしました。てきの大砲がへやに当たったのです。中にいたら大けがをしていました。

 騎士はつるぎに手をのばしましたが、持つことをやめます。
 生きのびたのは、争うためじゃない。そう思ったからです。

 それから騎士は、だれも傷つけることなく、たたかいをおわらせます。
 国にへいわがおとずれ、騎士がつるぎをもつことはなくなりました。

 おおきくてりっぱなお城に、ひとりのお姫さまがいました。
 今日はけっこんのあいてを決める、だいじな日。
 めのまえには、いろんな国から来た王子さまがならんでいます。
 しかしお姫さまは、だれをえらべばいいのか分かりません。

 こまっていると、オレンジ色のちょうちょが飛んでいることに気がつきました。どうやらお姫さまにしか見えていません。
 ちょうちょはひとりの王子さまの腕にそっと止まりました。おとなしくて気弱そう、でもどこかほうっておけない感じの王子さまです。

 お姫さまはその王子さまの前に立ち、いっしょになりましょうと伝えました。
 それからふたりはささえ合いながら、みんながしあわせにくらせる世界をつくったのです。

 お花がたくさん咲いている庭で、おばあさんと女の子がさんぽをしていました。
 大きなばしゃが走ってくると、おばあさんはとつぜん、みちのまん中へとび出しました。ばしゃはあわてて止まります。もうすこしでぶつかるところでした。

 おばあさんはみちにおちていた小枝をひろって、その下じきになっていたちょうちょを助けました。

 そばにいた女の子がといかけます。

「どうしてたすけてあげたの?」

 おばあさんはほほえみました。

「私は今まで、なんどもちょうちょに助けてもらったの。森で迷子になっているときも、国同士で争っているときも、愛する人を選ぶときも。だから今度は、わたしがちょうちょを助けたのよ」

 女の子がもういちど聞きました。

「おなじちょうちょだったの?」

 おばあさんはちがってもいいの、とこたえます。

「大切なのは、誰かを助けたいと思う気持ち。その気持ちをたくさんの人が持っているから、世界は平和で、あなたも幸せに暮らせるのよ」

 女の子はわかったような、わからないような顔でくびをかしげました。あたまの上にのせていたティアラが、たいようの光できらきらしています。

 ちょうちょはあっちへぱたぱた、こっちへぱたぱた、あおぞらの中をたのしそうに飛んでいきました。

 おしまい。

<終>

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