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【HEARシナリオ部】2022年1月のシナリオ『キミと一緒じゃなきゃダメなんだ』

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 たけのこは音声投稿サイトHEARで「HEARシナリオ部」に所属しています。

 物語創作が好きなユーザーによる部活で、HEAR内で自由に使ってもらえるシナリオを制作・公開するのが主な活動です。

 今回は「電子レンジ」をテーマにしたシナリオ『キミと一緒じゃなきゃダメなんだ』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

『キミと一緒じゃなきゃダメなんだ』本文

「キミとは一緒にいられないよ!」

 とあるアパートの一室で、誰かが怒っています。
 大きな声を出しているのは、電子レンジさんの中に置かれたターンテーブルくんでした。

「キミはまったく動かないのに、ボクばっかり、いっつもぐるぐる回されてる。不公平だ! これはもう労働格差だよ!」

 ガラス製の身体をガタガタとゆすり、今まで感じていた不満を洗いざらい口にします。

「こんなくたびれた箱の中で一生を過ごすなんてまっぴらだ。ボクは、ボクを必要としてくれるところに行くよ。キミなんて、新しいレンジと交換されちゃえ!」

 電子レンジさんが止めるのも聞かず、ターンテーブルくんはダイナミックに家を飛び出しました。

 その勢いのまま、隣の部屋に転がり込み、台所に立っていた女性に自分を売り込みます。

「お姉さん、ボクをお皿として使ってみて。透明だからオシャレだよ」

 一理あると丸めこまれた女性は、お昼ごはんのハンバーグを盛り付けてみました。最後にソースをとろりとかけます。

 じわじわ広がっていくソースが妙にくすぐったくて、ターンテーブルくんはゲラゲラと笑い転げました。
 おかげで白を基調したインテリアに、茶色いソースがまんべんなく飛び散ります。

 女性は怒り心頭。ターンテーブルくんは身の危険を感じ、窓ガラスをぶち破って一目散に逃げ出しました。

「ふぅ、危うくトンカチで粉々にされるところだった。よーし、今度はじょうずにアピールするぞ!」


 意気揚々と活躍の場を探すものの、何をやっても上手くいきません。
 レストランのトレイにも、自動車のハンドルにも、絵の具のパレットにもなれませんでした。

 ターンテーブルくんはとぼとぼと転がりながら、家電量販店へ向かいます。
 キッチンコーナーで仲間に相談してみると、ひとりがこう言いました。

 私達は自分だけじゃ何もできない。
 でもね、私達の代わりもいないんだよ。
 私達がいてこそ、電子レンジはその機能を充分に発揮できる。生活になくてはならない家電のパートナーなんだ。
 与えられた役割に、胸を張って生きていこう。

 ターンテーブルくんの心に光が差しました。
 急いで家に帰ると、電子レンジさんに頭を下げて謝ります。

「やっぱりボクは、キミと一緒じゃなきゃダメなんだ。また、あの頃の関係に戻れないかな……?」

 電子レンジさんは答えます。
 それはできない、と。

 悲しげな声の先には、べこべこに割れた横開きの扉が捨ててありました。
 ターンテーブルくんが出ていったときに、粉砕してしまったのです。

 そして電子レンジさんの置いてあった場所には、食材に合わせて五種類の加熱方法を自動的に判断してくれる、最新型のオーブンレンジが置いてありました。

「そっか……ボクたちはもう、料理を温めることができないんだね……。でも……それでも、ボクの居場所は、キミだけなんだ」

 機能を失った電子レンジたちは、粗大ごみとして処分されることを待つしかありませんでした。

 しかし家の人は、一向にゴミ捨て場へ持っていきません。
 電子レンジは家電リサイクル法の対象外で、処分にお金と手間がかかるため、放置していたのです。

 そのうち内部にプラモデルが置かれ、気づけばディスプレイケースとして利用されていました。
 テーブルを回すと、凛々しいロボットをあらゆる方向から鑑賞できます。

 料理を温めることはなくなりましたが、電子レンジさんとターンテーブルくんは、いつまでも一緒に暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

<終>

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