シナリオ・台本

【HEARシナリオ部】2021年6月のシナリオ『てるてる坊主のジレンマ』

 たけのこは音声投稿サイトHEARで「HEARシナリオ部」に所属しています。

 物語創作が好きなユーザーによる部活で、HEAR内に限り自由に使ってもらえるシナリオを制作・公開するのが主な活動です。

 今回は「てるてる坊主」をテーマにしたシナリオ『てるてる坊主のジレンマ』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

『てるてる坊主のジレンマ』本文

 窓ガラスに映る姿を見て、私はてるてる坊主なのだと認識した。
 生まれ持った使命を理解すれば、疑問は何も浮かばない。

 頼りない細糸(ほそいと)でぶら下がる私は、下手な顔で笑っていた。
 何がそんなに楽しいのか。

 からっ風に吹かれて、全身がくるくると回る。
 雲ひとつない空と眩しい太陽、点々と建つ茅葺(かやぶき)屋根の家。土地の大部分を占める田んぼには、喜怒哀楽を描いた大きな仮面が設置されている。独特の害獣対策だ。

「やあ。素敵なてるてる坊主さん。はじめましてだね」

 上から挨拶をしてきたのはスマートなくちばしを持ったツバメさんだった。軒先に住んでいるらしい。

「これからはご近所同士だ。できることがあれば、何なりと言っておくれ」

 それから近場に生息する方々が挨拶に来てくれた。どなたも感じがよく、毎日挨拶に来てくれる。
 恵まれた場所に吊るされたものだ。

 空は快晴が続く。
 私は己の使命を全うしていることに安心した。
 晴天を呼ばないてるてる坊主に存在価値はない。

 数日が経ち、田んぼの地割れはひどくなる一方だ。何日も雨が降らないため、土地が干からびている。
 緑の稲たちは一様に肩を落とし、暑さと干ばつの苦しさに耐えていた。

「おはよう。てるてる坊主さん」

 軒下からカエルさんが顔を出す。いつも穏やかで物腰が柔らかい方だ。

「毎日いい天気だねえ。ただこの体には少し、暑いかな。ははは……」

 日ごとやせ細る身体を引きずり、人間が撒き水をした木陰の土壌で青空を見上げる。

 私は高みから、カエルさんの大きな瞳に浮かぶ願いを感じ取っていた。

 今日は突き刺すような日差しだ。遠くのあぜ道が炎のように揺らめいて見える。
 挨拶に訪れる方はいなくなった。みなさん無事だろうか。
 心配とは裏腹に、私はいびつな笑顔で乾く世界を見つめるしかない。

「おはよう……てるてる坊主さん」

 カエルさんの優しい声は、その身体と同じくしわがれていた。

「きっと、これが最後の挨拶だ……みんなと同じ場所に行ってくるよ。こんな自分に毎日笑顔を向けてくれて……どうもありがとう」

 絞り出すような感謝を聞き、私は決意した。

「ツバメさん、ツバメさん。どうかお願いがあります」

「どうしたんだい、てるてる坊主さん」

 軒先の巣から、ツバメさんがすっと顔を出す。

「どうか私の糸を、そのくちばしで切ってください」

「何を言っているんだい、そんなことをしたらキミは地面に落ちてしまう」

「いいのです。この数日、ずっと考えていたことですから」

 何日も続く日照りは私のせいに違いない。私が使命を全うしているから。
 それは同時に世界から命を奪っていく行為でもある。

 窓ガラスに映る自分の笑顔が、たまらなく憎らしい。

「自分の存在が心苦しいのです。望まぬ世界に仕立てる私を誰も責めず、優しく接してくださる。一方的に与えられ、奪い続ける自分が許せないのです」

 地面に落ちたてるてる坊主なんて縁起が悪い。二度と吊るさず処分されるだろう。
 それでいい。

「……分かった」

 ツバメさんは巣から出て、私を吊るす細糸を食いちぎった。

 ぱさり。
 生きる意味を捨てた音は、あっけない。

 見上げる空にみるみる雲が渦巻く。
 やがてぽたり、ぽたりと恵みの音が響き、世界に幸福が降り注いだ。

 どんどん重くなる身体のそばで、カエルさんが感謝を述べていた。もったいない言葉が沁みていく。

 家の中から小さな人間が出てきた。歌い踊りながら空に手を伸ばしている。
 それから私を拾い上げ、こう言った。

「てるてる坊主さん、雨をふらせてくれて、ありがとお!」

 のちに私は言葉の意味を知る。

 この村には「てるてる坊主が地面に落ちると雨を呼ぶ」という風習があるらしい。
 だから私は、晴れているのに吊るされたのだ。

 本当の使命を果たした私は今、家の神棚に置かれている。
 雨をもたらす“縁起の良い”てるてる坊主として。

 雨音に混じり、外からカエルさんの歌声が響いてくる。
 楽しそうな音色に、私は心から笑顔を浮かべた。

<終>

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たけのこ
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