シナリオ・台本

【声劇台本】タクシードライバーにも知らない道がある(2人・15~20分)

作品情報

・現代劇/2人読み
・登場人物
1)男:三十代後半、タクシードライバー、人生に疲れている
2)学生:高校二年生、資産家の一人息子、声優になりたい
・朗読時間:約15~20分
・備考:Nはナレーション、◇はト書きです

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『タクシードライバーにも知らない道がある』本文

◇日が落ちた頃。崖の先。学ランを着た男子が立っている
 一台のタクシーがやってきて、一人の男が降りてくる

男「(崖の先に向かって)おい、火曜サスペンス劇場のクライマックスごっこなら他でやってくれ」

学生「……」

男「学ラン……子どもはさっさと家に帰れ。夜はロクなやつがいないぞ。まあ昼間もいないけどな」

学生「……僕がどこにいたって関係ないでしょ」

男「あるから話しかけてる。車が通れないからどけ」

学生「……? ここ、崖だよ。この先は海しかないよ」

男「見りゃわかる。どけ」

学生「落ちたら死んじゃうよ」

男「じゃないと困る。ほら、分かったら、さっさとどいてくれ。その後で火サスごっこでも何でもすればいい」

学生「……僕も乗せてよ」

男「あぁ?」

学生「僕もおじさんの車に乗せて」

男「待て」

学生「僕も同じ目的で来たんだ。ついでに乗せてよ」

男「そんなついでがあるか」

学生「その車……おじさん、タクシーの運転手でしょ。お金払うから、崖の向こうに連れてってよ」

男「料金の話じゃない。俺は一人で行くんだ、道連れなんかいらん」

学生「ついでにいいでしょ、ねえ、お願い!」

男「いちいち『ついで』が重いんだよ! 大体、なんでそんなに飛び降りたがる」

学生「……道がないなら、生きていても仕方ないから」

◇雨が降ってくる

男「なんでこのタイミングだよ……(深いため息をつく)」

◇二人、タクシーの中に入る。雨の音

学生「助手席って、生まれた初めて乗りました」

男「普通は乗せない。防犯上の理由もあるし、左側の安全確認もしにくいからな」

学生「ふぅん、知らなかった。だからいつも後ろにしか乗せてくれないんだ」

男「タクシー、よく使うのか?」

学生「いいえ、初めて乗りました」

男「ん……? まあ、中学生じゃ乗ったことない奴もいるか」

学生「——僕、将来声優の仕事で食べていきたいんだ」

男「(興味なさげに)ふーん」

学生「高校を卒業したら声優の養成所に行きたいんだけど、親は大反対で。大学に行けって」

男「声優って仕事はよく知らんが、養成所に行けばなれるもんなのか?」

学生「名乗るだけなら誰でもできる。今はネットで個人活動している人なんてたくさんいるし。でもテレビアニメとかでデビューするなら、まずはプロダクション……事務所のオーディションに合格して所属しなきゃ。それから作品出演のオーディションがあって、それに受かればデビューできる」

男「長い道のりだねえ。養成所っていうのはあれか、専門学校みたいなもんか?」

学生「ちょっと……結構違うかな。全日制のところもあれば、週一回のところもあるから」

男「習い事って感じだな」

学生「プロダクションが直接運営する養成所に入れば、所属オーディションを受けるチャンスもあるんだ」

男「なるほど。それに受かれば第一段階クリアってわけか」

学生「でもほとんどの人は所属できなくて、そのまま卒業するみたい」

男「そういえば、いつかテレビの特番で観たな。いま声優って憧れの職業だとか、競争率が高いとか、ギャラが低いから食っていくのは難しいとか」

学生「主役をやってもアルバイトしてる人はたくさんいるって」

男「そりゃあ親も普通に就職してほしいって言うわ」

学生「でもやってみなきゃ分からないでしょ! やる前から諦めるなんて……ヤだよ」

男「おお立派なチャレンジ精神だねえ。大学と養成所ってのは一緒に通えないのか?」

学生「行けるけど……目指すからには毎日レッスンのある養成所に入りたい」

男「熱意はいいが、大学にしろ養成所にしろ、金は親に出してもらうんだろ」

学生「そう、だけど……」

男「じゃあお前に選択権はない。交渉するなら、せめて大学と養成所の両立が最低ラインじゃないのか」

学生「養成所の費用は出さないって言われた」

男「バイトでも何でもしろ。相場は知らんが、働いて返すって言えば説得材料にはなる」

学生「大学行って、養成所行って、バイトもするってこと?」

男「大変だからやりたくないってか?」

学生「今だって成績が落ちると叱られるのに……大学の勉強もやってたら、真剣にやってる人と差が出ちゃう。早い人は中学とか高校在学中から養成所に通ってる人もいるんだよ。僕なんて遅いくらいだ」

男「それはお前次第じゃないのか。時間かけたってデビューできないヤツが五万といるんだろ? ならその逆、限られた時間で努力してデビューしたヤツもいるってことだ。声優って仕事にあこがれてな」

学生「……」

男「どのみち親を説得できない時点で諦めろ。あとは……宝くじでも買って一発当てるしかないな。金さえあれば養成所には行けるんだろ? 親とひと悶着あるだろうが……そこは頑張れしか言えん」

学生「無責任」

男「そこそこ的確なアドバイスだと思うが。というか、会ったばかりのガキの話を親身になって聞いてる俺に感謝すべきじゃないのか?」

学生「……ありがとう」

男「かなり歳上なんだが」

学生「……ございます」

男「ふん。で、思い通りにならないから崖から飛び込んでやろうってか」

学生「やりたいことができないなら、この先生きる意味なんてないよ」

男「若いなあ」

学生「おじさんには分からない」

男「分かるわ。むしろ俺くらいの年齢ならみんな通ってる道だ。大体のヤツは、夢と折り合いをつけて生きてきたんだからな」

学生「諦めたってこと?」

男「別の道を選んだってことだ。行き止まりに向かって進む意味はない。だったら別の道から先に進む」

学生「それじゃ行きたい場所に着かない」

男「そんなのは歩いてるヤツ次第だ。別ルートで当初の目的地を目指すか、遠回りするか。もしくは目的地自体を変えるか。行きたい場所なんて人の数だけあるし、道行く景色を重視するヤツだっている」

学生「……」

男「折り合いをつけるっていうのは、自分がそれに納得するってことだ」

学生「おじさんはどうして崖の向こうに行きたいんですか?」

男「(ため息)もう疲れたんだ」

学生「人生に?」

男「そうだな……正確に言うなら、人間に、か」

学生「誰かに嫌なことされたんですか?」

男「特定の相手じゃない。不特定多数の赤の他人だ」

学生「……?」

男「タクシードライバーってのは、客を希望の目的地まで運ぶのが仕事だ。連れて行く対価として、客は料金を支払う。互いの立場に優劣はない。サービスと金を交換しているだけで、関係は対等だ。そこにいつからか格差が生まれた。金を払う人間が格上、受け取る人間は格下。誰にも確認できない線が引かれ、見えない鎖が格下を縛った。そして格上には、客という名の免罪符が発行された」

学生「免罪符……」

男「客は偉い。だからサービス員はどんな態度にも文句は言えない。見下した態度でしゃべたって問題ない。ハッ、馬鹿げた世の中になったよ。一方的にしゃべるだけで、こっちの質問にはイヤホンをしていて聴く耳持たない。口を開いたかと思えば単語しか言わない。車を見てぶーぶーっていう子供じゃねぇんだから文章で言え。シートの下にゴミは捨てていく、気に喰わなければ運転席を蹴る。金を払うときは放り投げる。静かに置けよ。そんなことされていい気分になる人間なんているわけないだろ。そういうやつに限って、自分がやられると腹を立てるんだぜ。ハッ……」

学生「大変、なんですね……」

男「そんな奴らを相手にするたび、人間に愛想が尽きてな……これからまた何十年もこんなヤツらの相手しなきゃならんって思ったら……疲れちまったんだ」

学生「言わないんですか?」

男「客にか? 言ってるよ。ヘラヘラしながら、毎日、心の中で。それが精いっぱいだ」

学生「……」

男「さんざん偉そうなこと言っておいて、情けない大人だろ。みんな我慢して生きてるのに、自分だけが特別つらいみたいに音を上げるなんてな。だけど俺にはもう……余裕がない。この世界に順応できる気がしない。暗黙のルールが変わることも期待してない。ただ、人間に幻滅する一方だ。不特定多数に……自分にもな」

学生「仕事をやめようと思わないんですか?」

男「思ったよ……思ってるよ。でもな、俺の歳で今さら別の仕事は難しいんだ。運転以外に技能も資格もない。タクシードライバー以外で食っていく手段がない」

学生「……」

男「精神を削って死んでいくか、餓えて死ぬか……どっちの道も行き止まり。先がないと分かっているのに、つらい思いをして進むなんて無駄だろ? だったら最後の目的地まで一気に飛んで行った方が楽だ。ぽーん、とな」

学生「僕だっておじさんと一緒です」

男「全然違うね。お前はまだ道を……未来を選べる場所にいる。無責任ついでに言うが、努力次第じゃ声優で食っていく未来にも行けるだろう。目的地までは険しいだろうが、道は続いている」

学生「……」

男「だからこんな場所で諦めるな」

学生「おじさん……」

◇タクシーのドアが開く

男「分かったら降りろ。俺のことも、今日のことも忘れろ。じゃあな」

◇学生は降りない

男「降りろって」

学生「家までお願いします」

男「……なんだって?」

学生「僕は傘を持っていないし、夜はロクなヤツがいないって言ってたじゃないですか。だから僕の家までお願いします。これで足りますか?」

◇高校生、一万円札を出す

男「諭吉……最近のガキは」

学生「足りなければもう一枚」

男「あぁ分かったよ! クソッ、今日に限って、なんなんだよ……」

◇タクシー動き、学生の家に向かう
 場面が変わって運転中の車内。雨とワイパーの音

学生「タクシーに乗るって、しかも一人で。なんか大人になった気分です」

男「高校生は電車とバスで充分だ」

学生「電車とバスも乗ってみたいです」

男「お前、乗ったことないのか? 珍しいな……」

学生「全然揺れないですね。家の人より揺れないです」

男「こちとら何十年と運転してるからな。この辺の道だって知り尽くしてる」

学生「……僕の話を真剣に聴いてくれた人、おじさんが初めてです」

男「……」

学生「学校の先生は親と一緒のことしか言わないし、友達は頑張れとか無理だとか、適当なことしか言わないし」

男「そんなもんだろ、他人は」

学生「きっと僕は……ちゃんと話を聞いてもらって、意見してほしかった……だと思います」

男「無責任なことしか言ってないけどな」

学生「僕、親を説得してみます。アルバイトして、お金稼いで、大学と両立してみるって伝えます」

男「そうか。頑張れよ」

学生「はい」

男「そんなお前にもう一つアドバイスだ。接客はやめとけ。心がしんどい。あと座りっぱなしの仕事もだ。腰をやる」

学生「じゃあ何をすればいいんですか?」

男「ふむ……工場の流れ作業とか」

学生「立ちっぱなしになりませんか?」

男「それもそれで身体に悪いな……とにかく楽で金払いのいいバイトを見つけろ」

学生「無責任ですね」

男「ははは」

学生「ははは」

◇タクシーが踏切で止まる。遮断機の音

学生「おじさん。僕を降ろしたらどうするんですか?」

男「戻るよ。もう邪魔するヤツはいないからな」

学生「……おじさんは優しくて、真面目な人です」

男「吐き気がすることを言うな。俺は……自分を棚に上げて子供に偉そうなことを言う、上辺だけのいい加減な人間だよ」

学生「いい加減な人間だったら、僕は今頃ずぶ濡れになっています」

男「チッ。10パーセントで降ってんじゃねえよ」

学生「僕には行くなって引き留めて、自分だけ行くんですか?」

男「お前には先に進める道がある。俺には行き止まりの道しかない。言っただろ」

学生「じゃあ、おじさんにも行き止まりじゃない道があったら、崖には行かないんですね」

男「ないって言ってるだろ」

学生「あります。一緒です。おじさんはまだ生きているから。まだ道を探せます。きっと道はあります。優しく生きている人に道がないなんて、世界はそんなに荒れ果てていないと思います。だからこんなところで諦めないでください。僕はおじさんに……死んでほしくない」

◇電車が通過する
 場面が変わって、数週間後の運転中の車内。外は晴れている

男N 後日、俺はタクシー運転手を辞めた。新しい就職先が見つかったからだ。
   俺は今、資産家のお抱え運転手をやっている。
   今までの運転手が定年退職し、代わりを探していたそうだ。
   金持ちは後部座席にしか乗らないから、今までとやっていることは変わらない。
   違うのは、乗せる人間が固定化されたこと、不条理を感じなくなったこと、大学と声優の養成所に通う一人息子を乗せるたび、様々な悩み相談を受けることだろうか。
   まあ、再就職の手引きをしてくれた恩人だ。いくらでも乗ろうじゃないか。
   ただし、俺は無責任な事しか言わないけどな。

◇車が停止する

男「到着です。どうぞ、行ってらっしゃいませ」

【終】

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 音声投稿サイトHEARでも投稿しています。YouTubeと音声は一緒です。

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